その“モノガタリ”は誰のもの?江口のりこ主演『ワタシタチはモノガタリ』開幕
PARCO PRODUCE 2024『ワタシタチはモノガタリ』が、9月8日に東京・PARCO劇場で開幕した。今作の脚本を担当したのは、近年大手プロデュース作品への書き下ろしも続く注目の劇作家・横山拓也。PARCO劇場には初めての書き下ろし作品となる。 千葉雄大の現代アーティスト姿も話題、舞台『ワタシタチはモノガタリ』で絶妙なキャラを演じる江口のりこ、松岡茉優ら 肘森富子(ひじもりとみこ/江口のりこ)と徳人(のりひと/松尾諭)は中学校時代の文芸部の同級生。中学3年の夏、徳人が大阪から東京に引っ越してしまってから15年間、二人は文通を続けていた。二人は手紙の中で「30歳になってどっちも独身だったら結婚しよう」という約束を交わしていたが、徳人は30歳を迎える年に結婚を決める。その結婚式で15年ぶりに徳人と再会した富子は、彼を祝福しながらも彼に書いた手紙をすべて返してもらうのだった。 その後、その往復書簡を利用してインターネット上に小説を投稿した富子。「富子」を「ミコ(松岡茉優)」に、「徳人」を「リヒト(千葉雄大)」という名に変え、かなりの脚色を加えたその小説は、富子の予想を遥かに超えた大ヒットとなる。出版、映画化の話も動き出したものの、ネックは徳人に内緒で小説を書いていたこと。小さな出版社の編集者として働いている徳人は、自分が書いた手紙がそのまま小説に利用されている事実を知って激怒するのだが……。 PARCO劇場で「幼馴染」「文通」といえば、朗読劇の名作『LOVE LETTERS』のシリーズが思い浮かぶ。そんな先入観で「手紙を軸に登場人物たちの変遷が描かれていく」のかと思いきや、話はいい意味で予想外の方向へと転がっていく。徳人と富子の往復書簡、そして小説がいつしか大勢の人を巻き込み、「作品は誰のものか?」という創作論にも近い問いが舞台上に巻き起こる。そこには富子のイマジナリー彼氏である「リヒト」や富子の理想像である「ミコ」も関わってくるわけで、舞台上では脳内と現実、過去と現在がしょっちゅう入れ替わり、ときに入り交じる。 富子の小説に惚れ込み、映画化を目論む俳優の川上丁子(松岡茉優・2役)には、彼女と同棲している売れない映画監督の間野ショージ(入野自由)にまたやる気を出して欲しいという気持ちもある。一方、富子がファンである現代アーティストのウンピョウ(千葉雄大・2役)は、ひょんなことからこの映画に関わることになるが、彼自身もいろいろと自分の表現について思い悩んでいる様子。 ヒット作をめぐり様々な人の思惑や欲望は入り交じるが、登場人物たちはどこか憎めない。それは、根に「切実さ」を抱えているように思えてしまうからだろう。それを感じさせる丁寧な脚本と、そしてこの複雑な構造の作品をテンポ良く、繊細に仕上げた演出・小山ゆうなの手腕に拍手をしたい。