働き方改革の成果は? 社労士が目撃した「日本の労務環境の変化」
2019年4月1日から順次施行されてきた「働き方改革関連法」。有給休暇の取得義務や時間外労働の上限規制など、様々な制度が拡充されてきたが、果たしてこの5年間で日本は働きやすい社会になったのだろうか? 「管理職の罰ゲーム化」が加速する日本の職場...その原因とは? 社会保険労務士事務所、大槻経営労務管理事務所代表の大槻智之氏に話を聞いた。
日本は働きやすい社会になったのか?
――この5年間で日本の働き方はどのように変わりましたか? まず、日本の労働環境は大きな変化を遂げたといってよいのではないかと思います。経営者の意識が大きく変わり、働き方の多様化が進みはじめてきました。かつては「労働環境の改善には時間やお金をかけていられない」という姿勢の経営者が多くいましたが、現在では「労働環境の改善は他人事ではなく、何とかしなければならない」という意識が広がっています。 例えば最近、売り手市場で多くの企業が深刻な人手不足に悩んでいますが、応募者側にリモートワークが認められているかどうかといった、働き方改革の目的が人材確保になってしまっているのは課題だと思います。 私も長年、社会保険労務士として「働き方」に携わってきましたが、すべての業界・会社の業績アップに直結する働き方や制度というのは聞いたことがありません。あたりまえですが、どのような働き方が最適か、どのような制度が必要かは、業種や職種などその会社によっても異なるからです。 例えば社内に託児所を設けている企業がありますが、都心の会社と地方の会社とでは託児所の需要も異なります。それなのに、一概に"託児所がない会社はダメだ"という風潮になってしまうのは考えものといえるのではないでしょうか。 一方で、コロナ禍から日常生活に戻っていく中で、リモートワークを廃止して出社に切り替えた企業も多くありますが、そのような企業が手のひら返しでブラック扱いされることは間違いです。日本は他の国に比べ、新入社員や部下に対して丁寧な指導が求められていたり、基本的にチームで業務を行なっていくスタイルなので、連携が取りにくく、指導もしにくいリモートワークは実は日本にはまだまだ適していないように思います。 また昨今、働き方に対する世間の関心が高く、企業ごとに様々な制度が作られていますが、これからはその中で本当に必要なものと必要でないものが分別されて「日本にあった働き方」というものが定まっていく、今はそのための調整段階なのだと私は思います。 ――「最新の働き方改革」といった事例はありますか? 社員が安心して働ける"心理的安全性"の高い企業はひとつの事例と言えます。そのような企業は、「1on1」という管理職や上司と直接話せる面談の機会が多く設けられていたり、社員の意見や行動に対して原則否定をしないことがスタンダードになっています。一方で、社員の肉体的・精神的安全のために残業の規制などは必要だと思います。 2024年問題に挙げられる輸送業界や医療業界も、以前であれば「この業界だから仕方ない」といった開き直りともいえる理由で、有給休暇の未消化や時間外労働が見過ごされてきましたが、有給や休憩を必ず取らせる企業も増えてきました。 また最近の医療業界では、帽子や制服の色を区別することで、そのスタッフが早番なのか遅番なのかがひと目で分かりやすいようしているところなどもあり、これにより退勤間近の職員への無理なお願いが減少するといった様々な取り組みが行われています。