Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

「大統領選プロセス」にも大きな影を落とし始めた「新型コロナ禍」

配信

新潮社 フォーサイト

【ワシントン発】 米国における今年最大の政治イベントは、言うまでもなく11月3日に投開票が行われる大統領選挙である。  米国大統領選挙はオリンピック夏季大会と同じ年に行われるが、新型コロナウイルスの感染が国際的に拡大し続ける中、今年7月24日から8月9日まで開催予定であった東京オリンピックも1年間の延期を余儀なくされた。 ■感染拡大に歯止めがかからない米国  米国内での新型コロナの感染拡大に歯止めがかからず、「ジョンズホプキンス大学」の4月2日現在の集計では、感染者は中国を追い抜き世界最多となる23万6000人に達するとともに、死者数も6000人を上回った。  現在、ワシントン郊外で4週間目の在宅勤務を強いられている筆者にとっても、米国内での感染拡大の驚異的なスピードの恐ろしさを肌で実感している。  公衆衛生上の重大な危機の高まりは米国人の生命だけではなく、米国経済にも甚大な影響を及ぼし始めている。3月28日までの1週間の失業保険申請件数は664万件に達し、前週の330万人から倍増の勢いで、わずか2週間で約1000万件に達した。  ホワイトハウスの新型コロナ対策に関する記者会見にドナルド・トランプ大統領や対策担当のマイク・ペンス副大統領とともに姿を現している「国立アレルギー・感染症研究所」(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ博士は、米国内での感染者数は数百万人、犠牲者は10万人から20万人に達しかねないと警告するとともに、ワクチン開発には少なくとも1年から1年半が必要となる可能性があるとの見解を示している。  にもかかわらずトランプ大統領は、復活祭休暇を目処に新たな指針(ガイドライン)を公表し、現在導入している「社会的距離(ソーシャル・ディスタンシング)」の見直しを図り、米国社会を新型コロナの感染拡大前の状態に戻そうとしている。  だが、ファウチ博士や他の専門家はこうしたトランプ大統領の方針は事態をさらに悪化させると反対しており、さすがにトランプ大統領も4月末まで現在のガイドラインを継続することを強いられている。 1つにまとまれない民主党  現在、大統領選挙を巡るメディアの報道はほとんど影を潜め、新型コロナの猛威一辺倒となっている。  野党・民主党の大統領候補指名獲得争いについては、3月17日にフロリダ、イリノイ、アリゾナの3州で予備選挙が行われ、ジョー・バイデン前副大統領が圧勝したが、3月24日に予定されていたジョージア州予備選挙が延期されたのをはじめ、オハイオ州、ケンタッキー州、コネティカット州、そしてニューヨーク州などもそれぞれ予備選挙の実施延期を決定し、現時点ですでに15州が予備選挙の実施延期を決定している。  現状では、バイデン氏が候補指名に必要となる1991名の「誓約代議員」の約59%を獲得し、大統領候補指名を獲得することが確実である。  だが、予備選挙の実施延期が次々に決定される中、バーニー・サンダース上院議員(無所属、バーモント州選出)は、自ら可能性は少ないと認めつつも、大統領候補指名獲得への道は依然残されているとして撤退する意向を示していない。  それによりバイデン氏の下に民主党が1つにまとまる時期が先延ばしされており、トランプ大統領との事実上の直接対決の舞台に立つことができないでいる。 ■民主党全国党大会も約1カ月延期  このように、新型コロナの感染拡大はすでに米国の大統領選挙プロセスに影響を及ぼし始めているが、感染拡大を今後数カ月以内に抑え込めない場合、残りの民主党の大統領予備選挙や党員集会に影響が及ぶだけではなく、今年夏に開催予定の民主、共和両党の全国党大会や、大統領本選挙キャンペーン自体にも大きな制約が加わることが指摘されていた。  そうした中、「民主党全国委員会」(DNC)は7月13日から16日までの4日間の日程で、ウィスコンシン州ミルウォーキーにおいて開催予定であった同党の全国党大会を、1カ月先延ばしして8月17日の週に開催することを4月2日に決定した。  現時点では、トランプ大統領は、共和党全国党大会は8月24日からノースカロライナ州シャーロットで予定どおり開催されるとの見解を示しており、二大政党の全国党大会が2週連続で開催されることになる。  民主党の大統領候補が正式に擁立される全国党大会が1カ月先延ばしされることは、トランプ再選阻止に向けて大統領本選挙での政治資金の投入を遅らせることを意味する。  大統領候補は、正式に候補指名を受諾してからでないと調達した政治資金を本選挙キャンペーンで投入することができないことが「連邦選挙キャンペーン法」(FECA)に規定されているため、全国党大会の1カ月先送りは、バイデン氏や政権奪還を目指す民主党にとっては明らかに不利に作用することになる。  バイデン氏自身も、DNCが全国党大会の延期決定をする2日前、公衆安全面から当初の予定どおり開催できるのか懐疑的見方を示していた。  現時点で米国内での新型コロナ感染がいつ終息するのか専門家でさえ見通せない中、具体的な開催期間や形式、党大会参加者の規模がどのようなものになるのか、まだ決められる状況にはない。  仮に夏を迎えても終息が図れていない場合、「誓約代議員」やメディア関係者をはじめとして5万人もが集う二大政党の全国党大会が当初の準備どおりに開催できるのか、未知数である。  共和党全国党大会が開催されるノースカロライナ州では、ロイ・クーパー知事(民主党)が、公衆衛生上の懸念を理由に全国党大会を当初の計画のまま開催することに難色を示す可能性も指摘されている。 ■選挙キャンペーンも様変わりか  新型コロナ感染拡大に歯止めがかからない現状は、大統領候補が政治集会などのイベントを通じて有権者と対話し、支持を広げることを妨げており、有権者の中に飛び込んでいくことができない立場に置かれ続けることになる。  すでにバイデン氏自身も、自宅のあるデラウェア州ウィルミングトンからメディアのインタビューに応じ、あるいは支持者に対してビデオメッセージを発信している。  大統領本選挙キャンペーンでもバーチャル選挙キャンペーン、オンライン選挙キャンペーンといったかたちで選挙キャンペーンが様変わりする可能性がある。 ■未知の領域に  万が一、新型コロナが今年秋になって再燃した場合、11月3日に投票が行われる大統領選挙の投票自体のあり方も大きな変化を受けることは不可避である。  最近、下院民主党を率いるナンシー・ペロシ下院議長(カリフォルニア州第12区選出)ら民主党議員の間からは、郵送投票を積極的に導入しようとする動きが顕在化しつつある。  2016年大統領選挙では、事前投票が全体に占める割合は約4割に達したが、新型コロナの感染拡大で事前投票や郵送投票の動きがさらに高まる可能性があり、選挙管理という観点からも、各州で選挙管理を所管する州務長官により多くの負担が加わることになり、混乱も生じかねない。  新型コロナの感染拡大は、大統領選挙プロセスを未知の領域に導こうとしている。

住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト 足立正彦

【関連記事】