【著者に訊け】凪良ゆう 終末譚『滅びの前のシャングリラ』
【著者に訊け】凪良ゆう氏/『滅びの前のシャングリラ』/中央公論新社/1550円+税
ある種、物語の王道ともいえる人類滅亡もの。1か月後、小惑星が地球に衝突し、生存率は多くて2割という設定は、人々を丸裸にする一方、作家・凪良ゆうの筆を一層冴えさせる装置となった。 本年度本屋大賞受賞後第一作『滅びの前のシャングリラ』。全4章、4視点で構成される本作は〈江那友樹、十七歳。クラスメイトを殺した〉との告白で始まる。第1章では〈井上くん〉のパシリに甘んじてきた彼が、人気歌姫〈Loco〉の公演を口実に家を出た同級生〈藤森雪絵〉を守るべく広島~東京間を奔走。が、続く第2章も〈目力信士、四十歳。大物ヤクザを殺した〉と始まり、4人のうち3人の話者までが殺人を告白するのである。 「終末を描く以上、暴力は避けて通れませんでした。むしろこんな状況になって、人間の暴力性や汚い部分が出てこないと思いますか?」 本屋大賞受賞作『流浪の月』を始め、目下最注目の作家にとって“終末”は「自分もいつか挑戦したい、と思っていた身近な題材」だったという。 「40代後半の私の世代は、子供の頃から人生の設定にノストラダムスの大予言が組み込まれていたんです。1999年を無事越えてやっと『これで純粋に物語として楽しめる』と思ったほど、終末を身近に感じて育ってきました。ただ、いざ書くとなると覚悟が要りました。私の小説にヒーローは出てこないので、人類は全滅するしかないのです。 そんな中『いつか書きたい』が『よし書こう』に変わったのは昨年の夏でした。いつも作品を書くときは感覚に従っているだけなので、コロナ禍と刊行が重なったのは、あくまで偶然です」
数ある終末小説の中でも特筆すべきは、本書の登場人物が特に生きたいとも思わない地点から、最後の1か月を生き始めていることだろう。友樹にしても小学生の頃、一瞬だが心を通わせたこともある雪絵の前で井上らに日々虐げられ、口は悪いが情に厚い母〈静香〉を悲しませたくない一心で生きているようなもの。 その静香から死んだと聞かされてきた父親が、2章の話者・信士。だが親に殴られて育った信士自身、ヤクザ稼業から足を洗えないまま兄貴分の命令で敵若頭を殺め、その兄貴にも使い捨てにされた矢先、静香と再会するのだ。 「なんだか最近は『生きてるのが楽しい』と思いにくい空気が濃厚すぎると思うのです。かといって人間は綿菓子みたいにしゅっと消えてなくなることもできないから、“とりあえず生きてる”人も多いのかなあと。 人類平等に余命1か月という宣告は、そんなどっちつかずのしんどさから解放してくれる面もあると思う。惑星衝突を知った友樹の感情が愉快→理不尽→恐怖と揺れ動くように、1か月って微妙な長さなんですよ。終末小説は死までの期間に作家性が出ると私は思っています。1週間なら激情に身を任せたまま死ぬこともできる。でも私は、夢を見続けるには長く、何もしなければ餓死してしまう時間を、彼らに生きてほしかったんです」