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この小説にみなぎる「若さ」は必読です|黒田夏子さん最新刊

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本がすき。

'13年、75歳という史上最高齢で芥川賞を受賞し世の本読みたちを驚かせた黒田夏子さん。7年ぶりの受賞後初作品は「既成の文学のムードを全部振り払ったものを書きたい」という思いから出発した野心作。音読することで新しい世界にも出合える、唯一無比の小説集です。

 黒田夏子さんは『abさんご』で'12年に第24回早稲田文学新人賞を、'13年には史上最高齢の75歳で第148回芥川賞を受賞し話題を呼びました。当時、本誌の「シリーズ人間」にもご登場いただき、教員や事務職、校正者などとして働きながら、ずっと作品を書き続けてきたことを語っています。  受賞後第1作になる『組曲 わすれこうじ』は7年の歳月をかけて織り上げた小説集です。本作も前作と同じ横書きで、句読点の代わりにピリオドやカンマが使われ、平仮名も多用されています。 「私は既存の文学が持つムードを全部取り払ったものを書きたいんです。本作に限りませんが、横書きの小説を書こうと思ったのは、文学は縦書きが慣習になっているから。今は、子どもたちが使う教科書でさえ横書きの時代です。なぜ文学だけ縦書きなのか、その疑問が根底にありました。  また、文学というとテーマやストーリーが重視されますが、私はそれも振り払いたい。それで、本作を執筆するときも、事前に人物配置、家族関係、それぞれの背景、部屋の間取りなどは決めましたが、テーマや筋をどうするかとか、時系列に書くというようなことは全部避けました。登場人物たちも性別や年齢、名前など書いていません。これもどうとでも限定されないようにしたかったからなんです」  黒田さんは、にっこり微笑みながらとても楽しそうに話します。 「ですので、物語のあらすじを追ったりテーマを考えたりするのを好まれる方には“ストーリーがないからつまらない”と言われることもあります。取材に来られた記者の方に“横書きの小説には抵抗がある”とか“最後まで読めなかった”と言われたことも(笑)」  テーマもあらすじも決めず、時系列に沿って書くこともしない。そういった手法で、いったいどうやって小説を書き進めていくのか――。記者の疑問に黒田さんは身振り手振りを交えながら続けます。 「どこから書き始めるか、どこで終えるのか決めないで書く流儀ですので、モヤモヤしたまま書き始めます。今回、執筆の取っ掛かりにしたのが絵葉書、トランプ、ミニチュアの動物など具体的なモノ。そういった具体的なモノからこうして(←地面を掘るように手を動かして)潜っていったんです。トランプならトランプをつついていくと見えてくるものがあり、それを言葉に置き換えていく感じです」  たとえば――。 《十三まいづつの四系統に,どこにも属さない,なぞめいて不穏なふんいきの図がらの一まいをくわえた五十三まいひとくみのかーどは,折れ目などはなかったもののすでになよびかに手ずれていたから,べつに幼年の手に合わせて(以下略)――》。  本作には17の掌編が収録されていますが、いずれも右記のような流麗な筆致でつづられる情景描写の連続で構成されています。 「これまで生きてきて、そのときどきに言葉にできなかったモヤモヤしたものを捕まえたい。そういうものに出合いたくて小説を書いていると思っています。  ところで、弁慶読みってご存じ?“弁慶がなぎなたを持って”を“弁慶がな、ぎなたをもって”と語句の区切りを間違えて読むことなんですが、私の作品は平仮名が多いのでそうならないように気をつけました(笑)。言葉の流れに自由に乗る楽しさを面白がり、遊んでいただければうれしいですね」  実は本作は、音読もオススメ。言葉たちが美しいリズムを奏で、読み手の脳裏には幻想的だったり懐古的だったりとさまざまなイメージが浮かんでくる快感! 小説の奥深さを堪能できる逸品です。

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