市川染五郎が語る『三谷かぶき』 「役者としてのスタートはこの作品」
まだ15歳の瑞々しさのなかにも、歌舞伎俳優としての成長を確かに感じさせている八代目市川染五郎。襲名から2年が経って、今、何を思うのか。 【画像】大人びた表情は15歳に思えない! 歌舞伎俳優・市川染五郎の撮り下ろしフォトなど全9枚 インタビューの前篇では、2019年6月に歌舞伎座で上演され、この2020年10月からシネマ歌舞伎として映画館に登場する『三谷かぶき 月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち』で感じたことに迫ってみた。 新作歌舞伎は初めてながら、三谷幸喜が作・演出したこの作品で、実に伸びやかな演技を見せた染五郎。その挑戦への思いを語ってくれた。
初めて挑戦した現代語の芝居
──『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』がシネマ歌舞伎として映像になりました。まずどんなお気持ちですか。 自分にとってすごく大きな経験となった大切な作品なので、それが映像としてちゃんと残ること、そして、生の舞台とはまた違った、シネマ歌舞伎という形でお客様に観ていただけることを、とてもうれしく思っています。 ──大きな経験になったというのは、どういうところでそう感じられたのでしょう。 これは三谷さんの脚本・演出だったので、セリフも現代語で、ナチュラルでリアルなお芝居だったのですが、これまで古典歌舞伎をやってきた自分にとって、そういうお芝居は初めてだったんです。 だから、三谷さんはもちろんのこと、一緒に出演されていた八嶋智人さんにも、本当に付きっきりで一からお芝居を教えていただいて。この経験があったから、また次の挑戦につながったということもあったので、自分にとって本当に大切な作品になりました。
ギャグシーンを演じるのは「恥ずかしかった」
──描かれているのは、江戸時代後期、ロシアまで漂流することになってしまった船の乗組員たちが再び日本の地を目指す物語。そのなかで染五郎さんは一番若い磯吉役を演じられました。主人公で船頭の大黒屋光太夫をお父様の松本幸四郎さんが演じておられたので、親子という関係を使って笑わせる場面も、三谷さんが作っておられましたね。 はい。いち早くロシア語を覚えた磯吉が、みんなにロシア語講座を開く場面があるんですけど、光太夫だけに強くキレるところがあって。気持ちよかったです(笑)。 ──ほかにも、吉本新喜劇のようにギャグを言ったりコケたりするところがありました。そういうお芝居をするのはいかがでしたか。 恥ずかしかったです(笑)。性格的にギャグを言うようなタイプではないので。 ただ、父がお笑いが大好きで、それこそ吉本新喜劇や、ザ・ドリフターズの番組を、自分も小さい頃から観ていたんです。 そのときに父がいつも、「笑わせるのは間が大事だから、間を見て」と言っていたので。それは自分でもちょっと意識してやっていたかもしれません。 ──旅の途中で磯吉が恋に落ちるアグリッピーナとのシーンも見どころではないかと思いますが、市川高麗蔵さんとのラブシーンはいかがだったでしょう。 あのシーンが一番恥ずかしかったです(笑)。