【ドラクエ3リメイク】堀井雄二氏と坂口博信氏の対談が実現。HD-2D版『ドラゴンクエストIII』をクリアーした坂口氏が気になるポイントを堀井氏に直撃する、濃厚で貴重なスペシャルインタビュー!
スクウェア・エニックスよりNintendo Switch、プレイステーション5(PS5)、Xbox Series X|S、PC(Steam)向けに発売されたHD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』。 【記事の画像(19枚)を見る】 2024年11月14日に発売されてから1ヵ月を待たずにして、全世界出荷・ダウンロード販売本数が200万本を突破。1988年に登場したファミリーコンピュータ版から36年、HD-2Dにリメイクされた本作が世代を超えて楽しまれていることは、これで証明されたと言っていいでしょう。 『ドラゴンクエストIII』(以下、『DQIII』)がゲーム史に残るRPGの名作であることに異論はないと思います。そして、ドット絵と3DCGを融合させた、なつかしくも新しいHD-2Dの映像表現で蘇った本作。 新職業”まもの使い”や“モンスター・バトルロード”、ボイスが付いたイベントシーン、難易度設定など、たくさんの新規・追加要素が加わったことで遊びやすくなり、新たなマスターピースとしてファンを生み出しています。 今回はそんなHD-2D版『DQIII』をテーマにした、『ドラゴンクエスト』(以下、『DQ』)シリーズ生みの親であるゲームデザイナーの堀井雄二氏と、『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズ生みの親である坂口博信氏という、日本のRPGを代表するレジェンドクリエイターの対談をお届けします。 2024年12月5日にスクウェア・エニックスより発売された『FANTASIAN Neo Dimension』のプロデューサーを務めている坂口氏は、お忙しい中に合間を縫ってHD-2D版『DQIII』をクリアー! スケジュールの都合で堀井氏がいる東京と、坂口氏がいるハワイをオンラインでつなぐという、ちょっと特殊な状況となった本対談ですが、おふたりしか話せないエピソードはもちろん、坂口氏がHD-2D版『DQIII』で気になったことを堀井氏に直撃する、いままでにない内容に。 まさにプレミアムな対談、ぜひご一読ください! 堀井雄二(ほりい・ゆうじ): ゲームデザイナー。1986年、シリーズ第1作目となる『ドラゴンクエスト』を発表。その3作目となる『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』は、さまざまな社会現象を引き起こすほどの大ヒットとなり、以後、つねにゲーム業界の第一線で活躍を続ける。 坂口博信(さかぐち・ひろのぶ): ミストウォーカーCEO。『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親であり、『ブルードラゴン』、『ロストオデッセイ』、『ラストストーリー』、『テラバトル』など多数の作品を手掛ける。2024年12月5日にプロデューサーを務める『FANTASIAN Neo Dimension』が発売。 ――今回はHD-2D版『DQIII』の発売を記念した、『DQ』シリーズの生みの親であり、ゲームデザイナーとして活躍されている堀井さんと、『FF』シリーズの生みの親であり、いまはミストウォーカーを率いる坂口さんの対談となります。: 堀井:& 坂口: よろしくお願いします。 坂口: 堀井さんとは最近、東京ゲームショウ2024のラジオ番組(※)でお会いしましたね。 堀井: そうですね。でも、こうやってふたりでお話しするのは、相当ひさしぶりですよね。 ※ラジオ番組:J-WAVEで放送されている番組『TOKYO M.A.A.D SPIN』のコーナー『ゆう坊&マシリトのKosoKoso放送局』にて、鳥嶋和彦氏と堀井氏にくわえ、ゲストとして坂口氏と植松伸夫氏、松野泰己氏が出演。東京ゲームショウ2024のSamsung SSDブースで、公開収録ステージとして座談会が行われた。 ――ファミ通でおふたりの対談が実現するのは2000年以来なので、24年ぶりになります。: 堀井: 2000年だと、 『DQVII』が出たくらいですね。 坂口: 『FFIX』も同じ年に発売されましたから。 ――2000年7月7日に『FFIX』が、8月26日に『DQVII エデンの戦士たち』が発売されました。今回も、2024年11月14日にHD-2D版『DQIII』が、12月5日に『FANTASIAN Neo Dimension』が発売ということで、同じ2024年の近しい時期に、おふたりが手掛けられた作品が発売されるため、今回の対談をお願いさせていただきました。坂口さんにはHD-2D版『DQIII』を事前にプレイしていただいたところ、クリアーされたということで、その感想なども含めてお聞きできればと思います。 坂口: 39時間ほどでクリアーしました。主人公のレベルは48で、転職は各キャラクターで1回ずつ。戦士はレベル46の魔法使いに、僧侶はレベル45の賢者に、魔法使いはレベル44の戦士になったのが、クリアー時の布陣です。 堀井: いい時間ですね(笑)。相当やり込んでいただけたようで、ありがとうございます。 ――プレイの感想も踏まえて『DQIII』に関するお話をお聞きしたいのですが、その前にまずはおふたりの関係について、あらためて伺わせてください。1986年5月27日にファミリーコンピュータで『DQI』が、1987年1月26日には『DQII』が発売されました。同じ1987年の12月18日に『FF』の第1作が発売されて。 坂口: 『FF』が出てからすぐに『DQIII』が発売されたんですよね。 堀井: 1988年2月10日発売だったので、ほぼ2ヵ月後になります。 『FF』は気になっていたので、「ついに出たな」と。遊んでみて、けっこうバランスがきついなと思いました(笑)。 坂口: (笑)。 堀井: いや、これはアリだと思いましたね。同じRPGですが、アプローチはまったく違いました。 『DQ』はプレイヤーが主人公になりきる体験を目指していましたが、『FF』は主人公がしゃべりますし、画面にすごくこだわっていて、“見せる”ゲームになっていると感じましたね。 ――逆に坂口さんは『DQ』にどのような印象を持たれていたのですか? 坂口: 僕にとって 『DQ』は、『FF』を作り出すきっかけになったゲームです。 それまでにもPCでRPGを作ってはいたのですが、ファミリーコンピュータでRPGを作るのは無理だろうと思っていて。ROMカセットの容量も小さかったし、何より最初はセーブもできなかったじゃないですか。 その問題を、『DQI』は“ふっかつのじゅもん”という形で解決した。これが目からうろこで驚きました。「ファミリーコンピュータでもRPGが作れるじゃないか。僕たちも追いかけよう」と触発されて作ったのが『FF』なので。 ――『FF』が出てからすぐに『DQIII』が発売されたということで、坂口さんはプレイされましたか? 坂口: 僕の記憶では当時、風呂もない家賃3万円のアパートで、ひとりウイスキーかなんか飲みながら徹夜で遊びました(笑)。あのエンディングにはがく然としましたね。 『DQI』と『DQII』とのつながりに「こうなっていたのか!」となったことをすごく覚えています。 ――堀井さんも『DQIII』が発売されたときは、その反響に驚かれたそうですね。 堀井: 当時は事務所が新宿にあったので、仲間と自転車に乗って、ヨドバシカメラまで見に行ったんですよ。寒い中にたくさんの人が発売を待っているのを見て「たくさん並んでくれているな、なんだか悪いな」と思いました(笑)。 ――当時は全国で報道されたくらいの熱狂ぶりでしたから。 堀井: 発売前からあれだけ話題になったのは、おそらく 『DQI』と『DQII』が、RPGなんてわからない人たちにも、けっこう受け入れられたということなんでしょうね。 ――それから30年以上もおふたりが第一線で活躍され、新作を出し続けていることは純粋にすごいと思います。 堀井: もう36年前になるんですね。 坂口: ずいぶん経ちました(笑)。 ――ちなみに、坂口さんは『DQ』のナンバリングタイトルをひと通り遊ばれているのでしょうか?: 坂口: 『DQXオンライン』以外はプレイしています。MMORPGには完全にハマってしまうほうなので、手を出すのはヤバいと思っていたので、これだけは遊んでいないんです。 堀井: 『FFXIV』はすごく遊んでいますよね? ――そこはご存じなんですね。 坂口: あれは吉P(吉田直樹氏。スクウェア・エニックス 取締役/執行役員/クリエイティブスタジオ3 スタジオヘッド。 『FFXIV』のプロデューサー兼ディレクター、および『FFXVI』のプロデューサーも兼任)と対談するために遊んだら、案の定ハマってしまったということです(笑)。 ――堀井さんは『FF』シリーズを遊ばれていますか?: 堀井: もちろんプレイしていますよ。とくに 『FFX』には『FF』の完成形を見たという印象を受けました。『FFXII』も、自由に世界を探索できるようになった点がすごいと思いましたね。それまでと比べて一気に自由度が深まったと思います。 ――ゲームは作りもするし、遊びもするという。ゲーム作りに対するエネルギーの源泉はどこにあるのでしょうか? 堀井: ゲームを作ること自体が楽しいんですよ。RPGでできることがいろいろと増えて、「あれもやりたい、これもやりたい」と考えていたことが実現できるようになってきているので。 皆さんから寄せられる期待に応えたいという気持ちもあります。それに、若い人がどんどん育って、ある程度は任せられるようになっていくのを見るのも、うれしくなりますよね。 坂口: 好きなことを仕事にできたので、堀井さんと同じで、半分は楽しいですよね。もちろんストレスもあればハプニングもあるし、なかなか思うようにいかないこともあるのですが、半分楽しいと続いちゃいますね。 堀井: そうですよね。 坂口: 最終的には作品が完成するという形で、つらいこともすべてひっくるめて乗り越えられるので。何十年もそれのくり返しですから。 ――堀井さんは、途中でゲーム作りをやめようと悩んだことはありませんか? 堀井: いちばん悩んだのは 『DQIV』のときですね。『DQIII』がすごくたくさんの人に支持されたことで、「つぎはどうしようか」というプレッシャーがすごかった。そこで『DQIV』は章立てにして、キャラクターを立てるようにしたんです。 ――『DQ』のナンバリングタイトルは、やはり堀井さん、鳥山明先生、そしてすぎやまこういち先生と言う存在が中心にいて、それぞれの作品で世界観を構築していくというコンセプトがある印象です。対して『FF』のナンバリングタイトルには、それぞれの作品が強い個性を持っていて独立している印象があります。 坂口: 我々の場合は、スタッフみんなのエネルギーの集合体というか、パワーで突き進んでいくようなゲーム作りでした。 それに、2作目のときに、世界観の基本は同じにしつつ、キャラクターやストーリーは毎回別個にしていくというコンセプトを立てたんですね。なるべく変化をつけていこうと。 ――『DQ』シリーズもタイトルを重ねるごとに変化し、進化し続けてきましたが、今回のHD-2Dでのリメイクという変化には驚きました。: 堀井: 早坂くん(早坂将昭氏。HD-2D版 『DQIII』プロデューサー)からのアイデアもありましたし、HD-2Dなら昔の味を出せると思いました。 3Dという方法も考えたのですが、2Dのテイストが残っていることでゲームがわかりやすくなり、いろいろと変える必要がないという点もありました。それにすごくHD-2Dの画面がキレイなので、HD-2Dでのリメイクはすぐにオーケーしましたね。 ――坂口さんはHD-2D版になった『DQIII』を観て、どのような感想を持ちましたか? 坂口: 絵もそうですが、音楽がオーケストラ音源になっていて、すごくリッチになったと感じましたね。ドット絵の感触をうまく残しているので、絵としてなじんでいます。 坂口: 実際に遊んでみたら、やはり“ドラクエ感”が満載で、ゲームとしていい塩梅に仕上がっている。それに、ファミリーコンピュータ版からユーザーインターフェースの面でかなり変化があるじゃないですか。HPとMPがバー表示になっていたり。じつは、ここに意外と驚きました。 『DQ』と言えばHPとMPは数値で表示されている印象が強くて、「HPが120で30ダメージ、これは痛い!」と数字を見て感じる(笑)。それがバー表示になったことで「HPが120でダメージ30でも、まだ3分の2は残っている」という安心感が生まれます。数字とバーというグラフィックの表示の仕方で受ける印象が変わるんだな、と再発見しましたね。 堀井: 昔はそこまで細かくバーを表示できなくて、出せたとしても小さくてわかりにくいなと思ったんですね。それよりも数字でダメージ値をボンッと表現したほうが、痛みが伝わると考えました。 それから時代が進んで、グラフィックの表現もよくなってきて、バーがグッと減ることでも痛みが伝わるなと思い、今回はバー表示を採用しました。 坂口: 後半になると、いきなりドカンとHPが8割ぐらい減ることもありますからね。いきなりHPがオレンジ色になるのかよ! と、しっかり危機を感じ取れました(笑)。 今回の対談にあたって、なるべく過去の攻略情報は見ないで自分の記憶だけを頼りにして遊んだのですが、すごくもの悲しいエピソードもあるのに、宝箱からステテコパンツが出てきたりするところで、ひさびさの“ドラクエ感”を味わえました。 それに、夜になってから、家の中に入ってタンスを探ってアイテムを取ったときの、やってはいけないことをやっている背徳感というか、あの楽しさを思い出しました(笑)。 堀井: それを逆手に取って 『DQIV』では、主人公がタンスからアイテムを取ると「どろぼー!」と言われるシーンを作ったりしましたね(笑)。 坂口: マップが現実世界を模している部分もあるので、やっぱりハワイを探してしまいました。「ここは……?」と思ったところで初めて“ぬいぐるみ”を発見して、ちょっとうれしくなったり(笑)。 ――ファンの方にはおなじみだと思うのですが、『DQIII』の世界地図は現実世界をモチーフにしているのですよね? 堀井: そうですね。 『DQI』、『DQII』と作ってきた中で、現実の世界を参考にすればそれぞれに地域性が出ておもしろいなと思ったんです。それに世界地図にはなじみがありますし、マップをすごく広くしたので、プレイヤーも位置を把握しやすいだろうと考えました。 坂口: ひとつだけ、現実世界にない大陸がありますよね。あれは……。 堀井: ムー大陸です。 坂口: やっぱりそうなんですね。 ――あらためて確認できました! HD-2D版では原作の体験をそのまま再現しているところに、リメイクのこだわりを感じました。: 堀井: そうですね、原作の体験をそのまま楽しめるものにするという点は譲れませんでした。なので、スーパーファミコン版の性格判断もそのまま入れています。 堀井: それに“楽ちんプレイ”と“バッチリ冒険”、“いばらの道だぜ”という3つのゲームモードを用意しているので、原作のバトルバランスを体験したいなら“バッチリ冒険”を、あまりゲームに慣れていない方やお子さんなら“楽ちんプレイ”でゲームを楽しめるようにしました。 坂口: 原作の体験に近いものだろうと思って、僕は“バッチリ冒険”でプレイしましたね。きびしいところは全滅してもおかしくない感じでしたが、ボタンひとつですぐに回復できる機能はすごく便利でした。 ――メニューを開いてアイテムや呪文を選んで……としなくとも、カンタンに回復できますから。遊びやすさで言えば、それこそヒント機能もかなり充実しています。 堀井: 昔のプレイヤーは町の人全員に話しかけて、そこから情報を集めていましたよね。でも、今回はマップがかなり広くなったことで、全員に話しかけるのは面倒かもしれないなと思い、ヒント機能でけっこう情報を出すようにしました。 坂口: 僕は全員に話しかけましたよ。町の人と会話しなきゃ 『DQ』じゃないと思いますから(笑)。それに、あの会話というかセリフが楽しいんです。 イシスの女王が言う「すがたかたち ではなく 美しい心を お持ちなさい。 心に シワは できませんわ。」というセリフも最高で、その後の展開も含めて心に残っています。それこそ、会話に小ネタもいっぱいありますし。 堀井: 確かに、ネタはいっぱい入れましたね。僕自身がいたずら好きなので、プレイヤーに向けたいたずらをたくさん仕込んだんです(笑)。 坂口: 僕がいちばん 『DQ』らしさを感じるポイントは、堀井さんのシナリオです。それこそ、ちょっとした会話やメッセージ、仕掛けから、堀井さんのいたずら心を感じます。 みんな誰かの家に入ったりしたら、まずはタンスを探すでしょう? 宝箱も探って、取りこぼしがないか確認してから話を進める。この順番から生まれる背徳感が大好きです。だから、開かない宝箱や入れない家があると、すごくくやしくなる(笑)。 堀井: 夜にしか開いていないお店もあったり、夜にならないと取れないものがあったり……。 坂口: そうなんですよ。堀井さんはきっと「こんなものがあったらプレイヤーはこうしたくなるよな」と、プレイヤーの欲を読んでいて、ニヤッと笑いながらいたずらを仕掛けていると思います。 堀井: やっぱりゲームくらいは、やっちゃいけないことがやれてもいいと思うんですよね。 僕は人の家に行くと、理由はわからないのですが冷蔵庫を開けたくなるんですよ(笑)。学生時代は友人の家に行くと「何が入っているの?」と開けちゃっていました。さすがにいまはしていませんよ(笑)。 ――HD-2D版では、そんないたずら心のある仕掛けも残されています。: 堀井: 原作を遊んだ人は、なつかしいと感じる部分はたくさんあるでしょう。マップもかなり凝っていて広くなっていますが、ルートなどは変わっていないので、「おおっ!」となってくれると思います。 坂口: はっきりとは書けないと思うのですが、最後のダンジョンの仕掛けでは、ある操作で簡単に進めるじゃないですか。あれも残っていたので、すごくなつかしかったですね。 30年以上前なのではっきりとは覚えていなかったのですが、プレイしながらいろいろと思い出してきました。“キングヒドラ”の強さや、鳥山先生が描いた“くさったしたい”の、目が飛び出しているイラストがすごく印象深かったこと。ピラミッドで延々と迷って「これはバグか? いや、ダンジョン内の情報がウソだったんだ!」となったり。 ――今回、ピラミッドには新しいボスもいます。 堀井: これまで、あそこにボスはいなかったんですよね。ただ、原作をプレイされた方が、あのアイテムを手に入れたときに「これで終わったの?」と思われたりもしたようなので、今回はボスを加えてしっかりとしたエピソードにしてみようと思いました。 坂口: ピラミッドは今回、いちばん苦労したかもしれません。それだけに、“まほうのかぎ”を手に入れたときはうれしかったですね。あの宝箱をかたっぱしから開けて入手するときのウハウハ感が楽しくて。城の兵士に「手を出すな」と言われると、ますます泥棒な背徳感が(笑)。 堀井: ピラミッドと言えば、“おうごんのつめ”もありますね。入手するとエンカウント率がとんでもないことになるという。 ――当時は「なんてことをしてくれるんだ」と憤慨しました(笑)。 堀井: 昔は全滅すると、所持金が半分になって最後のセーブポイントまで戻されますが、それまで持っていたアイテムはなくならなかったんです。 でも、“おうごんのつめ”の場合はその仕様だと、全滅しても“おうごんのつめ”を持っている状態になって意味がない。だから、全滅したら“おうごんのつめ”だけは宝箱に戻るようにしました。それは今作でもそうなっています。 坂口: HD-2D版は最後にオートセーブした時点から復活できますし、だいぶやさしくなりましたね。 堀井: 全滅したら、前回セーブした時点まで戻ることもできます。それだと経験値もその時点に戻ります、お金は半分になりません。もちろん、所持金が半分になるけれど現状のまま復活できるという、もともとの仕様も残しています。 坂口: それがわかっていても、ピンチになるとやっぱり「いま、いくら持ってたっけ。やばい、お金が半分になっちゃう」とあわててしまって。 堀井: 『FF』も、ダンジョンの奥深くまで行って全滅するときびしかったのですが、シリーズを重ねていくうちにだんだんセーブポイントが増えていって、すごく便利になったと思いました。 ――原作の体験を大事にする一方で、本作にはさまざまな新要素が追加されています。: 堀井: 新しい要素に関しては早坂くんと開発チームにわりと任せていて、いろいろなアイデアが出てきたらチェックして……という形で進めていました。 ――早坂さんが本作のインタビューで、“ナジミの塔”のダンジョンの構成で悩んだときに相談したら、「看板を立てればいい」とアドバイスをいただいたことが印象に残っていると話されていて。堀井さんは“わかりやすさ”を大事にされていることが伝わるエピソードだと思いました。 堀井: 昔にプログラマーをやっていた関係で、どれだけ安く改良できるか、そこを考えてしまって(笑)。 大幅に変更するくらいなら、もっと単純な方法で解決しちゃえ、となるんですね。もちろん、わかりやすさは大事だと思っていますよ。 坂口: ダンジョンのつながりで言うと、わりと序盤のほうで複雑さを感じましたね。こんなに入り組んでいたかな、となりました。 ――原作の俯瞰視点のマップが頭の中に入っていて、実際にHD-2D版でプレイすると距離感が変わっているので、少し迷うことはありました。 坂口: それはあるかもしれませんね。ファミリーコンピュータ版は2Dで、もっと記号的だったので。 堀井: ファミリーコンピュータ版のマップだと、見える範囲が広くて、少し歩くだけですぐにつぎの町が見えてしまう。そこをどうやって冒険感につなげるかが難しくて、当時はマップにはけっこう悩みました。 今回はフィールドもかなり大きくなったので、また違う印象を受けるのかもしれません。 ――広くなったぶん、ヒント機能があるので、向かうべき場所に迷うことはありません。本作のユーザーインターフェースは『DQ』らしさもしっかりありながら、遊びやすく進化しています。: 堀井: だいぶいまどきになっていますよね。それに、どんなにヒントを隠してもネットで情報が手に入ってしまうので、それならネットを見なくてもゲーム内の情報で楽しめるようにしようと思いました。 ――船を手に入れると一気に世界が広がって自由度がアップするのですが、当時はつぎにどこへ行けばいいのか迷いましたから、ヒント機能はありがたいかもしれません。 堀井: みんな、すぐにジパングを目指してボスにやられちゃうんですよね(笑)。あそこは、海に出るのだから自由に好きな場所へ行けるようにしました。もちろんヒントを散りばめていましたが、なかなか見つけられないものもあったかもしれません。 ただ、レールはあるけれど、レールから外れたときにどれだけ楽しく自由に遊べるようになるのか、そこはキモだと思っているので、プレイヤーが寄り道したときに「こんなに楽しいのか」と感じてもらえるようにしましたね。 坂口: 僕は船を手に入れてすぐに転職しに行ったのですが、そこで装備なども変わるので、いろいろと考える必要があって、がらりとゲームが変わった印象を受けました。 それと、ファミリーコンピュータ版から変更されている部分もありますよね。今回は“おうじゃのけん”の入手法が変わっていて、なかなか手に入らなくて悩みました。 堀井: “モンスター格闘場”が“モンスター・バトルロード”になったこともあって、少し変更した部分はありますが、基本的には追加エピソードやモンスター、武器・防具、特技など増やす方向で調整しています。 坂口: でも、“ちいさなメダル”の楽しさは変わっていませんでしたね。全部集めたくなるし、何しろアリアハンでメダルおじさんに会えて、報酬を見られるので最初から集めたくなる。 堀井: 最初はちいさなメダルをこれだけ集めたらこれをあげる、というような、枚数に合わせてひとつひとつ交換する形だったんですね。 それだと交換するたびにメダルがなくなり、なかなか集めるモチベーションにつながらないと思い、累計でメダルを貯めていく形にしました。 坂口: いわゆる買い物ポイントですよね(笑)。お金を貯めて物を買う行為と並行して進められますし、最初のほうにムチやブーメランのような役立つ景品があるので、集めたくなるんです。でも、HD-2D版では45個くらいしか集められなかった。 堀井: 全部で100個以上はありますし、クリアー後のお楽しみでもあるので、探していただければ。ちいさなメダルだけではなく、“タネ”や“きのみ”も集めたくなるようにしましたね。 坂口: 僕は、タネは主人公一択です。何があろうが、手に入れたタネはすべて主人公に使いました。 堀井: 僕もそうなんですよ。手に入れたらすぐに使ったほうがいいので即決でした。 坂口: タネの効果もアップする数値が1から3となって、ランダムなところが好きですね。あれがけっこうドキドキします。 ――本作は“キラキラ”や“ひみつの場所”で、けっこういいアイテムやタネ、きのみが手に入る印象でした。そういった意味でも、本当に本作はいまの人にとっても遊びやすいゲームになっています。 堀井: 『DQ』の名前は知っているけれど、遊んだことがないという若い人はけっこういるんですよね。なので、そんな方々に本作を遊んでほしいという思いはあります。 もっと言えば、『DQ』世代の方々にお子さんがいらっしゃることもあるので、いっしょに楽しんでもらえたらうれしいです。“楽ちんプレイ”なら全滅することもありませんし、メッセージをひらがなにもできるので。 ――坂口さんは、HD-2Dという表現方法をどのように思われましたか? 坂口: 2Dを少し斜めに倒して、レイヤーを分けて手前にちょっと大きなものを描いて立体感を出すという手法はこれまでにもありましたが、いまのハードになり、自然なボケを入れることが可能になったので、すごくキレイに見えますよね。 写真を撮るのが趣味なのですが、被写界深度を浅くして後ろをぼかして撮るのが美しいと思っているので、このHD-2Dの世界も好きですね。 堀井: じつは、あまりボケを強くしないようにしたんですよね。写真みたいで美しいのですが、あまりに被写界深度が深いとキャラクターばかりに目が行ってしまうので、まわりの情報が薄くなってしまうのではと思い、もう少し浅くして視野の幅を広くしたいと思って調整してもらいました。 坂口: それに、セピアで描かれる過去のシーンが、ノイズっぽいエフェクトが入っていたりしてすごくキレイでしたね。キャラクターがアニメーションで動くところが要所要所に挟まれていて、見入ってしまいました。 堀井: ボイスが入ったことでも、だいぶ印象が変わっています。とくに主人公のお母さんのシーンでは、その感情が伝わると思います。 坂口: あのシーンは確かにいいですね。 ――母性というか、主人公を思うやさしさがより伝わってきました。ボイスやグラフィックの表現はもちろん、いろいろな要素が加わって、かなり遊びやすくなっていますが、堀井さんが『DQ』を作るうえでいちばん大事にしているのは、“誰でも楽しめる遊びやすさ”というところなのでしょうか? 堀井: ゲームでいちばん大事なのは、遊ぶ人が何をすればいいか、それがわかることなんですよ。不思議なもので、「こうすればいいんだな」と理解した時点で、あまりおもしろくなくとも、ある程度まで遊べてしまうものです。 なので、「何をしたらいいかわからない」となることをいちばん避けています。遊んでいるうちにだんだんとゲームがわかってくる、ここは大事ですね。 もうひとつは、ゲームはコンピューターで作りますが、コンピューターには冷たいイメージがあるので、逆にあたたかい世界を描くようにしています。 ――『DQIII』もそうですが、親と子であったり、仲間であったりと、『DQ』シリーズは絆を描いている作品という印象があります。 堀井: 『DQ』って、コミュニケーションツールなんですよね。友だちどうしで情報を交換したり、親や兄弟姉妹とゲームの話をしたり。 そんな思い出があるからこそ、いまだに皆さんが遊んでくれているのだと思います。そういう意味でも、これからも『DQ』はコミュニケーションツールのひとつでありたいですね。 坂口: 僕もあたたかい世界や物語は、ゲームに入れていきたいと思っています。ゲームは言ってしまえばデジタルの塊なので、あたたかくない世界のものも作れますし、システムだけで成り立つものではあります。 でも、せっかくシナリオやキャラクターが存在するわけですから、メッセージを込めて、アナログ的なあたたかい気持ちを入れ込みたいですね。そして、みんなが遊び終わった後に何か心の中に残るといいな、といつも思っています。 ――本作は、『DQIII』に思い出があるプレイヤーこそ、その年齢層によって印象が変わるかもしれません。昔は主人公だったけれど、いまはオルテガの目線でも物語を見ることができる。: 坂口: 自分の人生を 『DQIII』で振り返ることができるというのは、かなりすごいことだと思います。 堀井: あるテレビ番組の企画で中村光一さんと対談(※)したのですが、当時は20代と高校生だったふたりが、いまは古希と還暦ですからね(笑)。 ※BS-TBSの番組『X年後の関係者たち ~あのムーブメントの舞台裏~』の2024年11月11日放送回で『DQ』特集が放送。堀井雄二氏と中村光一氏が出演し、当時の思い出を振り返った。 ――それだけ前にファミリーコンピュータで発売された作品がいま、HD-2Dとなって新しいプレイヤーに届いているのも、やはり『DQIII』ならではと思います。: 坂口: やっぱりステテコパンツに反応しましたし、ちいさなメダルは欲しいですし、30年以上前と同じ感覚で遊べましたから。HD-2D版を遊んでみて、あまり歳を重ねたという印象はなかったかもしれません。 ――だいぶ先の話になるかと思うのですが、坂口さんがお孫さんから「『DQIIIってどんなゲームなの?」と訊かれたら、何と答えますか? 坂口: ちょっといたずら好きなおじさんが作ったゲームだよ、と答えますね(笑)。不思議でときどきドッキリさせる、ぎっしり詰まったおもちゃ箱という印象を 『DQ』に持っていますから。 ぜひ、これからもすべてのセリフを堀井さんに書いていただきたいですね。やはりそこに堀井さんのエッセンスを感じるので、町にいる人も含めて、すみずみまでお願いします(笑)。 堀井: それはたいへんですね(笑)。 ――最後に堀井さんからひとことお願いいたします。 堀井: つにHD-2D版 『DQIII』が発売されて、この後もHD-2Dで『DQI』、『DQII』と続くので、いろいろな世代のたくさんの人に遊んでほしいですね。 ――つぎは『FANTASIAN Neo Dimension』を堀井さんにプレイしていただいて、坂口さんと対談していただければ! ありがとうございました。