「アリペイ」草創期を支えたエンジニアが日本に移住して挑む「Web3」ビジネス――中国「ミレニアル世代」の肖像
――中国のIT産業を観察してきた郭さんは、今後のインターネット業界の発展についてどのようにお考えですか? 今の状況について、一概に申し上げにくいのですが、ここ数ヶ月 中国の株式は暴落しており、中でもIT企業株の下落が目立ちます。これには複雑な要素が絡み合って影響しているものだと考えますが、主に2年前、米国証券取引委員会(SEC)が発表した「外国企業説明責任法」(HFCAA)の解決案が未だ見出せていないこと、そしてロシアとウクライナの戦争が大きく影響しているものだと思います。 筆者注:「外国企業説明責任法」(HFCAA) 外国企業説明責任法は、2020年12月18日に米国で上場する外国企業の会計監査に求める条項を既存の法律に追加する形で成立。HFCAAにおいて定められた要件を3年連続で達成できない外国企業の株式は、米国の証券市場での取引が禁じられる。中でも、外国企業に対する情報開示義務は中国企業に特化した内容であり、外国政府の所有権、支配権の有無、取締役会において中国共産党メンバーの有無、会社の定款に中国共産党規約の内容が含まれているかどうかなどが審査される。 まず、HFCAAについてはここ2年間、中国の証券取引委員会が積極的にSECと対話を繰り返し、中国国内では前向きに検討を進めているとの報道が出ていますが、具体的な法律や条例は未だ発表されていません。これほどの長期戦になるとは欧米を中心とした投資家のみならず、中国国内の投資家も思わなかったはずです。そしてロシア・ウクライナ戦争が、そこに追い討ちをかけました。もちろん、これは中国市場のみならず、全世界の株式市場に甚大な影響を及ぼしていますが、前述の影響もあり、中国のIT企業株は壊滅的なダメージを受けています。 現在中国の株式市場にとって必要なのは、投資家からの信頼だと思います。前述のHFCAAや、戦争、そしてFRB(米連邦準備理事会)の金利引き上げなど中国の株式にとって悪材料がそろい踏みの状態になっています。ただし、ここで注意していただきたいのは外部環境の変化はあったものの、中国大手IT企業の収益力には特に影響を及ぼしていないこと。短期的に株価が戻ることはないものの、行き過ぎた下落に調整が入るのも時間の問題だと思います。 そしてマクロ環境については、2016年以降、中国におけるモバイルインターネット市場のチャンスは著しく減少したと思います。僕が2013年、北京でスタートアップに携わった頃はまさに全盛期で、街中にスタートアップの活気があふれていました。中国は2010年代に、モバイルインターネットユーザーがわずか数年で4.5億人から倍増する経験をしました。2021年時点では9.8億人に達しています。この急速に発展した市場は、多くのユニコーンを世に送り出しましたが、今ではインターネットボーナスの時代は過ぎ去り、新参者にはあまりチャンスは残っていないのではないでしょうか。 代わりに盛り上がりを見せているのがWeb3の業界でしょう。多くの資本がこの領域に流れ込み、起業家がネクストトレンドであることを認識しているのですが、中国では規制されている。今後、中国がどのようにこの業界と向き合うかは要チェックだと思います。 筆者注:Web3 従来のインターネット業界は、プラットフォーマーがクリエイターやコントリビューターではなく株主に利益を還元し、ユーザーのデータを抱え込むことによって市場を独占する中央集権的なアプローチ(Web2)が中心だった。これに対してWeb3は、ブロックチェーンの技術を用いて特定のサービスやプラットフォーム、会社に依存しない分散型のインターネットを実現した時代を指す。