ネタニヤフ氏が汚職裁判で証言、現職首相の刑事被告人出廷はイスラエル初
ヨランデ・ネル中東特派員 12月10日は、イスラエルにとって注目すべき日だった。首相在任期間の最長記録をもつベンヤミン・ネタニヤフ氏が、刑事裁判で被告として証言台に立った初の現職首相となった。 ネタニヤフ首相はこの日を、パレスチナ・ガザ地区で戦争を続けながら、そして中東地域が激動の1週間を経験し、イスラエルもシリアへの攻撃を行うなかで迎えた。 ネタニヤフ首相の弁護人を務めるアミット・ハダッド氏は弁論の中で、同首相に対する汚職裁判は偏向していると指摘。ネタニヤフ首相は政治的な魔女狩りの犠牲者だと述べた。 ハダッド氏はまた、検察側が「犯罪を捜査しているのではなく、一人の男を追い詰めている」と述べた。 ネタニヤフ首相はその後、収賄や詐欺、背任の3件の罪状における訴追は大したことではないといった態度を示し、自身の政治的レガシーを強調しようとした。同首相は一切の不正行為を強く否定している。 ネタニヤフ首相はテルアヴィヴの法廷で、「私は真実を語るため、この瞬間を待ち続けて8年になる」と述べた。 「だが、私は首相でもある。(中略)7カ所の戦線で戦争をしている国を率いているが、この二つは並行して行うことができると思う」 ■国内メディアや米富豪に便宜図った疑い 過去4年間、検察当局はネタニヤフ首相がイスラエルのメディア所有者に対し、規制上の便宜を図るのと引き換えに、好意的な報道を求めたと主張している。 また、米ハリウッドの富豪プロデューサーとの間でも、個人的な便宜を供与するのと引き換えに、葉巻やシャンパンといった高価な贈答品を受け取るやりとりがあったとしている。 ネタニヤフ首相は3人の判事の前で、イスラエルのメディアが長年にわたり、自分に「ばかげた」攻撃を展開していると述べた。また、裕福な友人から受け取った贈り物が不正だと示唆することは「二重にばかげている」と述べた。 右派リクード党を率いる同首相は長い演説の中で、イスラエルのメディアが左翼的な立場を取っていると示唆し、批判した。 さらに、自分がパレスチナ国家の推進に加わらなかったために、ジャーナリストらに長年にわたって敵対的な態度を取られたと非難した。 ネタニヤフ氏は証言中、座ることなく立ったまま、「もし私が良い報道を望んでいたなら、2国家解決の合図をするだけでよかっただろう。(中略)左に2歩動いていたら称賛されていただろう」と述べた。 ネタニヤフ首相は午前10時ごろ、大きな笑顔を見せながらテルアヴィヴ地方裁判所に入り、この日の審理が終了した午後4時直前まで滞在した。 裁判は安全上の理由でエルサレムから移され、爆弾シェルターとしても機能する小さな地下法廷で開かれた。 報道のために法廷に入れたのは限られた人数の認定ジャーナリストのみで、他のジャーナリストは上の階で配信映像を見た。 ネタニヤフ首相は今後、数週間にわたり、多くの時間を証言に費やすとみられている。裁判所は先週、首相が今週は2回、それ以降は週3回出廷する必要があると決定した。 そのため首相は裁判所と、近くのイスラエル国防省の作戦室を行き来することになると予想されている。 ■裁判所前には支持者と抗議者が集結 この日は午前中に著名な閣僚らが裁判所に姿を現し、ネタニヤフ首相を支持し、裁判を批判した。 リクード党のミリ・レゲブ交通相は、「裁判所は首相を屈辱し、イスラエル国家を恥辱し、国家の安全を損なわなければならなかった」と述べた。 「もし首相の証言を数カ月延期していたらどうなっていたというのか」 裁判所の外にはネタニヤフ首相の支持者と抗議者が集まっており、警備員の列がこの小規模だが騒々しい群衆を分けていた。 テルアヴィヴ北部ハデラ在住のエリザ・ジヴ氏は、この混乱の時期には他のどのイスラエルの指導者もネタニヤフ首相の能力に匹敵しないと述べた。 また、「反ネタニヤフ陣営の憎しみは、首相に対する憎しみだけでなく、首相の支持者に対する憎しみでもある」と話した。 一方、裁判所の入り口の反対側に立っていたテルアヴィヴ在住のシヴィオナ氏は、ネタニヤフ首相は「国の最善の利益よりも自身の政治的生存を優先する、国民の敵」だと語った。 ガザ地区でイスラム組織ハマスに拘束されているイスラエル人の人質の親族やその支持者たちも、人質解放に向けたさらなる行動を求めて集まった。 ハダス・カルデロン氏の2人の子供は昨年11月の一時的な戦闘停止の一環として解放されたが、元夫のオフェル氏は依然として拘束されている。 カルデロン氏はBBCに対し、ネタニヤフ首相は「市民を気遣うよりも、自分の罪、私的な罪を気にかけている」と述べた。 「首相は人質のことを気にかけていない。とても悲しいことだ」 ■イスラエル政治に影落とす裁判 ガザでの戦争以前、ネタニヤフ首相の裁判はイスラエルに深い分裂をもたらし、総選挙では5回連続で議論の中心となった。 首相の批判者たちは、現政権の司法の権限を抑制する政策が、この司法問題に関連しているとみていたが、首相はそれを否定していた。 2023年10月7日のハマスによる致命的な攻撃は、一時的に国民の団結をもたらしたが、以降の戦争が長引くにつれ、その団結はほとんど崩れてしまった。 イスラエルは最近、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラと不安定な停戦合意に達した。 しかし同時に、国内では主要閣僚と司法機関の間の緊張が再燃。論争の的とっているいくつかの司法改正を復活させるという脅しも生じている。 今回の裁判は1年以上続くと予想されている。 たとえネタニヤフ首相が有罪判決を受けたとしても、最高裁判所に上訴することができるため、一連の司法手続きが当面の間、イスラエル政治に影を落とし続けるとみられている。 (英語記事 Netanyahu rejects 'absurd' charges at corruption trial
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