立川直樹がこの一カ月に出会った良質なアート&エンタメをご紹介! SUGIZO『愛と調和』、ワタリウム美術館『生きている東京展』など
人々の心に寄り添うSUGIZOのニューアルバム『愛と調和』は残っていくべき作品
音楽・舞台・美術など幅広いジャンルのプロジェクトを手がけてきたプロデューサーの立川直樹さん。新たな感動を求め、西へ東へ旅する中で出会った良質なエンタテインメントをご紹介いただきます。(ぴあアプリ「立川直樹の エンタテインメント探偵」より転載) 【全ての画像】「立川直樹の エンタテインメント探偵」第66回(全6枚) 元旦の夜10時からNHK BS1で放映された『欲望の資本主義2021』は予想通り、深い示唆に富んだ番組だった。エマニュエル・トッド、ジャック・アタリ……といった世界の知性が考える世界の在り方と行方。110分の番組の中で誰かが言っていた「2020年は過去35年を1年につめたような年」という言葉は思わずメモしてしまったが、年が明けても混迷の度は政治からエンタテインメントに至るまで増すばかりだ。 そこで思うのは価値基準の完全な崩壊。水先案内でも紹介したブルーノート東京でのSUGIZOの即興演奏プロジェクト、SUGIZO’S SHAGのスリリングなジャム(12月7日)と世界規模の快進撃を続けるジャズ作曲家、挾間美帆が13人編成の自身のユニットで聴かせてくれた極上のアンサンブル(12月20日)のような純粋に音楽に向かいあっているものと、国民的行事と言われ、今年は視聴率が上がったとNHKが喜んでいる“紅白歌合戦”に象徴される音楽に視覚的要素や親しみやすさをいかに取り入れるかを慢心しているような俗のエンタテインメントとの間にある抗い難い差異。 SUGIZOは12月23日に世界的パンデミックにより疲弊した人々の心にそっと寄り添い、水のように染み渡っていくアンビエント・ミュージックをコンセプトにした楽曲を収録した3年ぶりの新作『愛と調和』をリリースしたが、晩秋にリリースされたメロディ・ガルドーの5年ぶりの新作『サンセット・イン・ザ・ブルー』とともに、音楽は絶対に“情報”や“商品”ではなく、“作品”として流通し、残っていくべきものだということを改めて思わせてくれた。