コロナ禍ロックダウンの武漢で何が起きていたか ドキュメンタリータッチで描いた金馬奨受賞作
世界を一変させた新型コロナウイルス。2019年12月に中国・武漢市で最初の感染者が報告され、わずか数カ月でパンデミック(世界的な大流行)となったことは記憶に新しい。その武漢でのロックダウン(都市封鎖)の様相を描いたのが「未完成の映画」。中国第6世代監督の婁燁(ロウ・イエ)が世界に放つ傑作だ。日本には詳細が伝わらなかった中国の混乱、人々の孤独や不安、深い悲しみが伝わってくる。ロウ監督は「コロナの時期、我々スタッフがみんな感じていた気持ちを映画の中に盛り込んだ」と明かす。 【写真】第61回金馬奨で主演男優賞などを受賞した「漂亮朋友」。写真中央が主演男優賞を受賞したチャン・ジーヨン=金馬影展執行委員会提供 11月に台北市で開催された台湾映画賞「第61回金馬奨」で作品賞と監督賞の2冠に輝いた。第25回東京フィルメックスやカンヌ国際映画祭でも上映されている。
「未完成の映画」撮影再開したものの
映画はフィクションだが、一部はスマートフォンで撮ったのか画面が縦長になるなど、ドキュメンタリーのように展開していく。19年、映画監督が10年前に未完成のままに終わった作品を完成させようと俳優らを集めて撮影再開を呼び掛けた。20年1月に武漢で撮影は再開されたが、コロナの感染が急拡大。厳しい行動制限で感染を抑えるゼロコロナ政策により、突然ロックダウンが始まる。撮影は中断され、製作チームがいるホテルは強制封鎖。俳優やスタッフは各自の部屋に隔離されてしまう。後半には、実際に封鎖された街を市民がスマートフォンで撮影してソーシャルメディア(SNS)にアップした動画が織り交ぜられ、現実との境界が消えていく。混とんとする社会の中で生きる個人の存在を描こうとする姿勢は、ロウ監督の過去の作品にも通底する。 検閲が厳しい中国で、中国当局が敏感に反応しそうなコロナ政策を取り上げた本作は、中国では上映できそうにない。さらに、作品の中で撮影の完成を目指していたのは、同性愛を取り上げたクィア映画だ。中国では性的少数者を描いた作品の上映も極めて困難だ。作品の中で、主人公の俳優が撮影再開を打診した監督に、「どうせこの映画は公開されないのに、どうして作りたいんだ」と問う場面がある。その言葉は、二重のハードルを抱えた本作を取り巻く中国での現状を捉えた皮肉に聞こえてくる。 金馬奨の授賞式で、ロウ監督のメッセージが読み上げられ、「この作品に携わった一人一人に対する栄誉です。この作品はとても特別なもの。通常の創作とは異なり、最初から最後まで計画されたものではないからです」と述べた。 ロウ監督は1965年生まれ。94年に初の長編作「デッド・エンド/最後の恋人」を発表した。数々の作品で国際的に高い評価を受けたが、中国ではたびたび上映禁止に。「天安門、恋人たち」(2006年)では、中国ではタブーとされる天安門事件(89年)を扱ったうえ、過激な性描写が問題視された。上映禁止に加え、ロウ監督は5年間、製作禁止処分を受けた。