【作家・村山由佳さん60歳】の波乱万丈な過去…「母の言葉に救われたのは後にも先にも一度きり」|美ST
母に救われたのは後にも先にも一度だけ
今の夫とは、最初のうちは大阪と軽井沢の遠距離恋愛でしたが、’19年に入籍。それまでの相手には本音が言えなかったのに、今の夫とは喧嘩もよくしますし、日々大体笑っています。なにしろ親戚だから、私の母をよく知っていて、長年私が抱えてきた母への葛藤を説明なしに理解してくれました。母とのことは、自著『ダブル・ファンタジー』や『放蕩記』で執筆することでセルフカウンセリングをしたつもりですが、母を思い出しても、自分が可哀そうになったり、辛くなることがなくなったのは、彼のおかげです。母には自分で決めたルールがあって、どんな例外も認めてくれない人でした。 子ども同士で遊びに行くとき、お小遣いの前借りが当日の朝まで言い出せず、「貯金してないあなたが悪い」と、待ち合わせ場所まで30分バスで行って断わらせられたり。1つ1つは大したことはなくても、怖くて反抗できない恐怖政治でした。私もそれに従うことが習い性だったんですよね。そんな母が晩年は認知症になり、最愛の父が92歳で亡くなったお葬式で、柩(ひつぎ)にお花を一輪置くとき、母の車椅子を寄せて、「お別れやで」と言うと、「なんで寝たはんの?」と。「よう寝たはるな」と合わせるように言ったら、「こんな気持ちよさそうに寝たはるとこ、起こしたげたら可哀そうやな」と母が言ったんです。 それまで呆けた母を介護するとき、お腹に力をこめないと母の手を握れないくらい生理的な難しさがあったのに、母のほっぺに顔をくっつけ抱きしめて、「ほんまやな。起こさんといてあげよな」と涙を流しながら言えたんです。父を独りで死なせてしまった後悔を、母の言葉に救われた気がしました。母に救われたのは後にも先にもこのときだけ。すべてが浄化されるほどうまくはいかないけど、言葉って不思議なものだと思います。
自分で自分の機嫌を取れる人は美しい。日々の小さな楽しみを増やし何をしているときに自分は機嫌がいいのか知っておくこと
■3日坊主だからと諦めずとりあえず行動する 人生で困難な局面にいるときも、ちゃんと寝て食べます。お腹が空いているときと睡眠不足のときは絶対に悪い方向に考えるから。自分がポジティブでいられる最低限の工夫だと思っています。そして、日々の小さな楽しみを増やし、何をしているときが自分は機嫌がいいのかを知っておくこと。どんな状況にあっても誰かのせいにせず、自分で自分の機嫌を取れる人って美しいと思うんです。 私の場合は、庭いじり、好きな料理を作る、水槽の掃除、インテリア関連のDIYですね。時間ができたらやりたいことリストを携帯電話のメモに残し、所要時間と見比べながら上からこなしていきます。それがポジティブの素です。日々興味が移るので、浮気性なことは認めていますが、それは好奇心の牽引力みたいなもの。自分はどうせ3日坊主だからやらない、のではなく、とりあえずやってみる。行動する力を持ち続けていたいと思います。