モロッコの元受刑者ユーチューバー、悪党人生を語り大人気
(c)AFPBB News
【2月12日 AFP】北アフリカ・モロッコの元受刑者たちが出所後、動画共有サイト・ユーチューブ(YouTube)で自分たちの悪党人生を語り、ソーシャルメディアのマイナー有名人として脚光を浴びている。 「俺がやったみたいに、刑務所の中でクスリをさばけたら、大したもんだよ」と豪語するモハメド・ムスタドラフ(Mohamed Moustadraf)さん(48)。元麻薬密売人。タトゥーの入った腕に金の時計をはめ、髪は後ろで束ね、上下ジャージー姿だ。合計23年間、獄中で暮らした。 ムスタドラフさんは、モロッコで人気の元受刑者ユーチューバー約20人のうちの一人だ。彼らの多くには数百万人の視聴者がついている。 彼らは囚人同士の凶暴な対立や、看守への報復などの話でフォロワーたちをうならせ、刑務所内の虐待や過密に対して怒りをぶつける。 「刑務所の中でも外でも、ずいぶん金を稼いでいた」と言うムスタドラフさん。子どもは3人いる。「ただ、自由だけがなかった。今は、それを生かして他の人たち、特に若者と経験をシェアしたい」。自分の前科を美化することが目的ではないと強調する。 彼にユーチューブを勧めたのは、ミュージシャンのグナウィ(Gnawi)さんらラッパーの友人たちだ。グナウィさんはインスタグラム(Instagram)のライブ配信で警察官を侮辱した罪で、1年の実刑判決を受けた。 ■「セラピーのようだ」 元受刑者イリヤス・コラリィ(Ilyas Korrari)さんも、ユーチューブでヒット中だ。何千人ものサブスクライバーに心を開くことは「セラピーのようだ」と言う。 「以前はみんなが自分を避けようとしたり、変な目で見たり、怖がったりした」とコラリィさん。「過ちを犯した者に対して世間は冷酷だから、自分の中に憎しみと復讐(ふくしゅう)心が満ちていた。でも、カメラのおかげで立ち直った」 彼も元麻薬密売人。38年の人生のうち、17年を獄中で過ごしている。最後に出所した2018年以来、人生を変えようと決意したという。現在ユーチューブで24万人のサブスクライバーを持ち、動画の視聴回数は計2100万ビューを超えている。 昨年、首都ラバトの北にあるケニトラ(Kenitra)市に小さな音響・映像制作会社を設立したが、これまでの収益は「地味」だと言う。 監獄がテーマの投稿チャンネルも、マイナーながら熱狂的なファン層を生んでいる。カサブランカ(Casablanca)市の30代のファンは、「刑務所の環境における不正を糾弾している」と説明する。ただし「一つ気掛かりなのは、英雄ぶった態度。あるいは、彼らの一部が犯罪を矮小(わいしょう)化していることだ」と語った。 ■公式メディアの穴を埋める ムスタドラフさんは2019年にチャンネルを開設し、これまでに1300万ビューを獲得した。 しばしば刑務所内の過密状態や看守の腐敗について語り、収監中の人権侵害や「疑惑の」死亡事故に警鐘を鳴らしている。生き残るためには「拷問や不正に耐えなければならない」と言う。 刑務当局の広報担当者はAFPの質問に対し、「こうしたユーチューブチャンネルやそこで語られているうそ」について警告した。受刑者の家族から苦情があれば、「細心の注意を払って」調査を行っていると述べた。 だが、モロッコの刑務所の状況は逼迫(ひっぱく)している。受刑者のための人権擁護NGO「モロッコ刑務所監視団(Moroccan Observatory of Prisons)」は、2019年には全国の収容者数が8万6000人を超え、施設によっては収容率が定員の2.5倍を超えていたと訴える。 殺人罪で20年服役し、2020年に出所した元ボクサー、モハメド・ベンタズ(Mohamed Bentazout)さん(57)は「元受刑者の証言が、公式メディアが触れない穴を埋める」と語った。 彼は無実を訴え続け、事件の再審を求めている。ユーチューブを使い、「モロッコ国内と世界中の視聴者」に自分の訴えを発信しているという。自分に対する「明らかな不正」に抗議するため、監房を模して自宅のテラスに建てた小さな部屋に暮らす。そして汚名をそそぐまで、そこから出ないと誓っている。 映像は1月15、28日撮影。(c)AFPBB News