ビリー・ジョエル「素顔のままで」のジャズ演奏BEST20【ジャズを聴く技術 ~ジャズ「プロ・リスナー」への道】
文/池上信次 前回まで、ポップス発祥のジャズ・スタンダードの「作曲家」としてスティーヴィー・ワンダーを紹介しましたが、ポップス発祥のジャズ・スタンダードはもちろんスティーヴィーの楽曲だけではありません。今回からしばらくは、ポップス発祥のジャズ・スタンダード「曲」を紹介していきます。ポップスの名曲、人気曲であっても、そこには「ジャズとして」演奏する魅力がなければジャズマンは取り上げませんから、ジャズ・スタンダードとなっているポップス曲には、ジャズと通じるサムシングがあるといえます。そういった曲を知ることで、(ジャズしか聴かない人も、ポップスしか聴かない人も)音楽の楽しみが大きく広がることでしょう。 今回紹介するのは、ビリー・ジョエルの「素顔のままで」。作詞・作曲はビリー・ジョエル。原題の「ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー」のほうが通りがいいかもしれませんね。この曲は1977年発表のアルバム『ストレンジャー』(コロンビア)に収録されており、シングルでも大ヒットしました。ざっと調べただけでも、ポップスではこれまでに200を優に超えるカヴァー・ヴァージョンがあるほどのポップス・スタンダードとなっています。 レコードの演奏はビリー・ジョエル本人(ヴォーカル、ピアノ)と彼のバンドが中心ですが、ソロイストとしてアルト・サックスの大ヴェテラン、フィル・ウッズがフィーチャーされています。このウッズによるオブリガート、間奏とアウトロの(ウッズらしいジャズど真ん中のスタイルによる)ソロがじつに素晴らしく印象的なので、ジャズ・ミュージシャンは敬遠するかと思いきやさにあらず。ビリー・ジョエルの発表直後から多くのジャズ・ミュージシャンがこの曲を取り上げています(なお、シングルはアルバムより70秒短いヴァージョンで、アウトロのウッズのソロが短く編集されています)。 グローヴァー・ワシントン・ジュニア『リード・シード』(モータウン) 演奏:グローヴァー・ワシントン・ジュニア(アルト・サックス、バリトン・サックス)、ほか 発表:1978年 「素顔のままで」でグローヴァーは、アルトでメロディとソロをとった後、さらにバリトンでソロをかぶせるという珍しい構成。この頃のグローヴァーはポップスのヒット曲をすぐさまカヴァーするのがひとつの「売り」だったようです(147回で紹介した「アイ・キャント・ヘルプ・イット」参照)。