<シリコンバレーから日本の皆様へ>今、日本人と日本企業に必要なのは「できるよ」感
部分最適化だけでは大きな価値はつくれない
米国はいわずと知れた自動車大国だが、カリフォルニア州で最もよく見た自動車の一つが、テスラの電気自動車(EV)だ。日本でも目にする機会は増えているが、その頻度には圧倒的な差があった。実はEVをめぐる認識についても、フレーミングによって大きく変わると櫛田氏は説明する。 「自宅で充電できないのは不便なので『集合住宅にEVは向かない』という言説は、日本では常識になりつつあります。ただ、私自身もEVユーザーですが、自宅で充電することはほとんどありません。充電する設備がこの街にはあふれているからです。 『充電時間が長くかかるから不便』という認識も根強くあります。確かに充電時間が短い設備を選択しても40分程度は必要ですし、長ければ8時間ほどかかります。ただし、ここでの『長さ』の基準は、多くの人がガソリン車での給油をイメージしています。私はオフィスで仕事をしている間に充電するのが日課なので、迷わず8時間かかる設備で充電します。40分で終わると逆に困るのです。もちろん、ちょっとした買い物に行く時には40分で終わる設備を選びます」 近年、TPOに応じてユーザーが「選択」できる仕組みが、櫛田氏の住むこの街のみならず、米国中で構築され始めているという。もはや「満タン」にすることも当たり前ではないのだ。 「どれほどガソリン車の燃費を向上させても、それがEVになることはありません。ユーザー視点に立ち、『充電設備が少ない』ことがモビリティーを普及させる一つの障害なのであれば、それを解消していくことが企業としても、社会としても重要なのではないでしょうか」 日本には数々の社会問題があり、どれも解決に向けた対応が急務である。だが、目先の短期的な対応だけで問題が解決したかのように錯覚している状況も見られる。 「米国から日本を見ていて感じるのは、『部分最適化は得意ですが、全体最適を生み出す力が弱い』ということです。 例えば近年、高齢ドライバーのペダル踏み間違い事故防止のため、急発進抑制装置が搭載された自動車の購入に補助金が出る制度ができました。確かに高齢者の事故防止には一定の効果があるかもしれませんが、統計的には若者が起こす事故のほうが圧倒的に多いのです。この根本的な問題にどう対応していくべきかを考える必要があります」 誰を守り、誰の困り事を解決していくのかは、部分最適でなく、全体最適で考える必要があるということだ。 「必ずしも『社会課題』として難しく考える必要はありません。結局、社会や組織は個人の集積なので、身近なところから『あったらいいな』を実現していくことが大切なのです。そして、『日本でもできるよ』という前向きなムードをつくっていきたいですね」
野川隆輝