初期宮﨑駿が描く“人間の善性” 『ルパン三世 カリオストロの城』はなぜ語り継がれるのか
銭形警部「ヤツはとんでもない物を盗んでいきました」はなぜ名台詞になったのか
一歩間違えると噴飯ものの臭い臭い台詞だ。だが、同じくここだけパズーの顔をした銭形のこの台詞を聴いたときの、溢れ出す多幸感よ。なぜこのシーンで、こんなにも幸せな気分になれるのか。それは、「人間って、素晴らしいな」と思えるからだ。 『未来少年コナン』、今作、『天空の城ラピュタ』などの初期宮﨑作品は、本当のラスボス以外は基本的に「いい人ばかり」である。残念ながら現実世界では、自らも含めて「いい人ばかり」ではない。作品内では、レプカやカリオストロ伯爵やムスカたちは、一様に天罰を受けたような最期を迎える。だが、現実世界のカリオストロ伯爵たち(悪い権力者たち)は、特に天罰を受けることもない。 だからこそ、今作を通して、人間の善性を信じたいのだ。人間は素晴らしい、人生は素晴らしいということを、感じたいのだ。 今作を映画館まで観に行く層は、昔から何度も何度も観ている年代の方が多いかもしれない。でも、本当に今作を観てほしいのは、公開時のメインターゲットだったと思われる、子供たちだ。これから長く生きていく人生が、素晴らしいものでありますように。次元や五エ門や不二子たちのような「気持ちのいい連中」に囲まれた人生でありますように。 そんなことを願ってしまうぐらいには、観た人間を「善人」にしてしまう作品だ。もしも、自らを「薄汚れてしまった」と思ったら、真っ先にこの作品を観てほしい。観終わる頃には、心がすっかり漂白されているはずだ。
ハシマトシヒロ