波の大きいバッターの共通点【立浪和義の超野球論】
どちらの可能性も
6月19日開幕、120試合制と異例のシーズンが無事終了しました。監督、コーチ、選手、関係者の皆さん、例年以上に神経をすり減らすことが多かったと思いますが、本当にご苦労さまでした。 私の古巣であるドラゴンズは久しぶりのAクラス3位には入りましたが、首位巨人には大きな差をつけられ、まだまだ課題はたくさんあります。来年の春季キャンプでは臨時コーチをさせていただくことになっていますが、技術だけでなく、野球に取り組む姿勢など、自分なりに伝えていけたらと思っています。 前回は4年連続日本一となったソフトバンクの勝因について書いてみましたが、今回も、その話の続きをさせてもらいます。 ソフトバンクは投手力、特にリリーフ陣の力は圧倒的なものがありましたが、打線はやはり水物です。特に短期決戦では、今回の巨人がそうだったように、いい投手に頭から抑え込まれると、「何とかしなきゃ」という思いで余計な力が入ってしまい、泥沼に陥ってしまうことがよくあります。 ソフトバンクでラッキーボーイ的存在となった栗原陵矢選手は捕手登録ながら打力を買われ、主に外野で起用された売り出し中の選手です。24歳と若く、しっかりとバットも振れる素晴らしいポテンシャルを持っています。パンチ力もあり、将来的には間違いなく、ソフトバンクの中心的選手となっていくと思います。 ただ、波の大きい選手で、ペナントレースの打率は.243とあまり高くはなく、ロッテとのCSでも無安打と不振に陥っていました。工藤公康監督は、それでも第1戦で五番に起用しましたが、もし結果が出なければ、すぐ代えられたか、あるいは、「逆シリーズ男」となる可能性もあったかもしれません。
中村晃の貢献度は大
経験の少ない若手選手で波が大きいバッターは珍しくありません。その要因の一つとして「長打の意識」があります。思い切りバットを振る、振れるというのは、いいことなのですが、思うように飛ばなかったり、疲れがたまったとき、その「振る」ことだけを意識すると、どうしても体で振ろうとしてしまいます。体で振ろうとすると、上体が大きく動きますし、あとは体の開きが早くなります。体を開くとインサイドは詰まりやすく、アウトコースが届きにくくなり、相手投手の術中にはまってしまいやすくなります。 日本シリーズでは第1戦の第1打席、巨人バッテリーもそれを考え、右投手の菅野智之選手がインコースにカットボール、スライダーで3球連続攻めましたが、結果的には甘くなった3球目を2ランにされ、試合を落とす要因となってしまいました。以前も書きましたが、外も使いながら、もう少し慎重に攻めていけば、悪くてもヒットで終わり、栗原選手も、もう少し眠ったままでいたかもしれません。これで乗せてしまい、その試合4打点、翌試合も4安打と大活躍しましたが、あの1打席で栗原選手が「シリーズ男」になり、逆に言えば、巨人が「シリーズ男」にしてしまったと思います。 ただ、打線で勢いをつけたのは、栗原選手ですが、貢献度が高かったのは中村晃選手だと思っています。第3戦のサンチェス選手からの先制2ランは見事でした。中村選手は体の上半身と下半身のねじれを使い、強く速い打球を打ち返せる選手で、高い野球センスを感じます。ベンチも彼が打席に入ったら何とかしてくれる、という信頼感があったと思います。
PROFILE 立浪和義/たつなみ・かずよし●1969年8月19日生まれ。大阪府出身。PL学園高からドラフト1位で88年中日入団。1年目からショートのレギュラーをつかみ新人王、ゴールデン・グラブに。その後、95年から97年とセカンド、03年にはサードでゴールデン・グラブに輝き、96年にセカンド、04年にサードでベストナインを手にしている。09年限りで引退。通算2586試合2480安打、135盗塁、打率.285。487二塁打は日本球界最多記録でもある。
週刊ベースボール