「ドラマのストーリーだけでは分からない」等身大の韓国を知る
『ドラマで読む韓国 なぜ主人公は復讐を遂げるのか』(NHK出版新書)は、韓国のソウルに1996年以降30年近く在住し、韓国ドラマや映画の字幕翻訳を手がけてきた金光英実さんが、ドラマの背景にある「韓国の素顔」に迫った本である。 「前書きでは、キラキラした表の韓国ではなく、見えない部分、特に『韓国人の心の闇』に焦点を当てた、と記されていますが、読者の反響はいかがですか?」 「全然知らなかった、ストーリーからはわからなかった、モデルとなった事件の裏事情を知れてよかった、とか単に、怖い、とか。特に韓国ファンだった女性の反響が大きいですね。韓国の居住者なら誰でも知っていることを書いただけなんですけどね。私自身にとっては、ごく普通のことばかりというか」 著者の金光さんは、予想以上の反響にいささか驚いている様子だった。
なぜ、韓国ドラマは世界で支持されるのか?
現在、韓国産のドラマや映画は世界を席巻している、と言っても過言ではない。 金光さんによれば、初期の代表作は『愛が何だ』(1991年公開、日本では未公開)、家父長制家族をコミカルに描いたドラマだ。次の成長期が、日本で大ブレイクした『冬のソナタ』(2002)でヨン様とジウ姫のラブロマンスである。次いで拡大期と呼べるのが、ネトフリなどで世界的話題作となった『愛の不時着』(2019)や『梨泰院クラス』(20)。 そして、2019年に米アカデミー賞の作品賞や監督賞など4部門を獲得した映画『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)の大躍進があり、世界的大ヒットのサバイバル劇『イカゲーム』(21)以降は、話題作を提供する量産体制がほぼ常態化した感さえある。 いったいなぜ、韓国ドラマだけが世界中でこのように受け容れられたのか。 本書では、国の後押し(国家戦略産業化)やコンテンツの面白さ(脚本や演技の激しい競争)の他に、韓国の「何もかもが日本の10倍も激しい」文化的な土壌を指摘している。感情の起伏などが過激という土台がある故に、喜怒哀楽が鮮明となり、物語の演劇性がより増すのだ。