強くて実は脆いアメリカ大統領 「弾劾」に必要なプロセスとは？
疑惑の立証と共和党議員の動きがカギ
今回のロシアゲートだが、あくまでも「トランプ大統領の弾劾の可能性は低く、時間がかかる」というのが現状だろう。メディアの報道が先行し、あくまでも疑惑が点在している状態である。8日の公聴会の直後、いつもトランプ大統領に否定的なマケイン上院議員からの厳しい言葉はあったが、共和党議員からのトランプ大統領を非難する声は限られていた。 コミー氏の議会証言は数々の疑惑のパズルを埋める最初のピースでしかない。ただ、非常に重要なピースでもある。モラー特別検察官の任命以降は具体的な捜査が進展しつつあり、モラー氏は議会に適宜状況を報告することで、議会側の証人喚問も進んでいく。もし、疑惑の点と点が結び付き、パズルが埋まっていき、弾劾に値するような司法妨害や贈賄、国家への反逆などがもし立証できたら、弾劾の手続きは進んでいくかもしれない。
ここからは、あくまでも想像上の状況だが、ポイントとなるのが、もし疑惑が広がっていった場合、いつかは予定されるとみられるトランプ氏の喚問であろう。そこで宣誓をした上で偽証をした場合、弾劾裁判にかけられた2人目の大統領であるクリントンと同じように、司法妨害とみなされる可能性もある。 現在の115議会（2017年1月から2019年1月）は上下両院とも共和党が多数派である。段階の手続きを最初の行う下院の場合、現議会スタート時には共和党が241、民主党194であり、6月初め現在、2議席ほど欠員があるが両党で40議席以上の差は変わっていない。 ただ、この数をどう見るかがポイントもしれない。下院では先日のオバマケア改定案でも共和党の10人以上が反旗を翻していることを考えると、もし疑惑が深まった場合、弾劾賛成に必要な過半数を集めることまでは不可能ではないだろう。ただ、訴追された場合、弾劾裁判を行う上院は共和党52議席、民主党48議席（統一会派の2人の無党派含む）であるため、3分の2の数はかなり難しい。 それでも別のシナリオもある。そもそも疑惑が深まった場合、捜査がかなり進展していくうちに、トランプ大統領の場合、ビジネスマン出身であるため、ロシアゲートの疑惑とは別に利益相反問題も出てくるかもしれない。辞任したニクソン大統領の脱税のような様々な違法行為も明らかになってくるかもしれない。自分自身悪いイメージが定着してしまうことにトランプ氏は耐えられないかもしれない。その場合、自ら辞任する選択肢も出てくるかもしれない。 繰り返しになるが、現状ではまだ捜査も始まった段階であり、あくまでも「トランプ大統領の弾劾の可能性は低く、時間がかかるであろう。それでも、モラー特別検察官の任命以降は具体的な捜査段階になるため、ロシアゲートの疑惑解明が進んでいく中で、「トランプ政権の終わりのはじまり」がスタートしているのかもしれない。 ---------------------------------- ■前嶋和弘（まえしま・かずひろ） 上智大学総合グローバル学部教授。専門はアメリカ現代政治。上智大学外国語学部英語学科卒業後，ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了（MA），メリーランド大学大学院政治学博士課程修了（Ph.D.）。主要著作は『アメリカ政治とメディア：政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(単著,北樹出版,2011年)、『オバマ後のアメリカ政治：2012年大統領選挙と分断された政治の行方』（共編著，東信堂，2014年）、『ネット選挙が変える政治と社会：日米韓における新たな「公共圏」の姿』(共編著，慶応義塾大学出版会，2013年）
