強くて実は脆いアメリカ大統領 「弾劾」に必要なプロセスとは?
議会による弾劾にも高いハードル
大統領への議会のけん制の中でも重要なのが、議会には大統領や副大統領を弾劾する権限が与えられている点である。この議会の弾劾の権限こそ、大統領と議会の権力の分立を最も象徴的に示すものだろう。大統領や副大統領は、国家への反逆罪、収賄罪、およびそのほかの重大な罪を犯し、有罪となった場合には、その職を解かれる。この有罪を問う権限が議会にある。 弾劾については、訴追権限は下院に、裁判の権限は上院にある。大統領が重大な罪過を犯した場合、下院が単純過半数の賛成に基づいて訴追し、上院が弾劾裁判を行うことになる。その際、最高裁判所長官が裁判長となるほか、上院では出席議員の3分の2以上の賛成で弾劾を決定する。 ただ、弾劾については国家としては一大事であり、そもそものハードルは高くなっている。実際にアメリカの歴史で、弾劾裁判にかけられたのは1868年のアンドリュー・ジョンソン大統領(南部再建問題での議会との対立)と1998年のクリントン大統領(不倫偽証をめぐる司法妨害)の2人だけであり、いずれも有罪は成立しなかった。 1970年代のウォーターゲート事件に関与したニクソン大統領の場合、権力の乱用などの理由で下院司法委員会が下院に弾劾を勧告した段階で、辞任している。もし現職の大統領が死亡や辞職、弾劾となった場合、副大統領、下院議長の順で大統領に繰り上がっていく。ニクソン辞任後は副大統領のフォードが大統領に昇格した。 日本の場合、日本国憲法下で過去に4回内閣不信任が可決されているが、こちらの方は衆議院の単純過半数で可能となる。それに比べると、上下両院、しかも上院の場合は3分の2の賛成票が必要となるため、アメリカの大統領弾劾という「天下の宝刀」は非常に重い。議会には弾劾する権限が与えられているものの、それも乱用できないようになっているのは、大統領だけでなく、議会が“王様”になることも防ごうという狙いがある。