福岡高裁「玄海原発訴訟」控訴審で上岡直見さんが初証言 緊急時対応計画「実効性なし」
福岡高裁で大詰めを迎えている玄海原発(九州電力、佐賀県玄海町)の全基運転差止訴訟控訴審(本誌8月2日号既報)で10月2日、元「新潟県原子力災害時の避難方法に関する検証委員会」委員の上岡直見さんが証人として意見を陳述した。昨年末に意見書を提出したが、直後に発生した能登半島地震を受けて「追加的検討を反映した補充陳述書」を提出した形だ。 控訴人代理人による主尋問と、被控訴人の九電代理人による反対尋問を通じ、上岡さんは主に11の観点から、能登地震と同等の地震が玄海原発で起こった場合の九電の緊急時対応が破綻していると指摘した。たとえば以下の各点だ。 ◆避難経路の407カ所で通行止めや通行規制などの支障が発生。 ◆被災者の自宅周辺にあるアクセスルートの道路ではそもそも避難経路に出られない場合も多い。 ◆海岸の地形変状や港湾の損傷で海路避難がほとんど不可能に。 ◆家屋損傷やライフライン途絶で屋内退避が不可能または困難に。 ◆モニタリングポストの欠測で、避難・一時移転判定が不可能に。 ◆道路の支障や職員の参集不能によって避難退域時検査等の場所を開設できなくなる。 ◆安定ヨウ素剤の服用や配布ができなくなる。 ◆停電や通信インフラの途絶によって情報取得ができなくなる。 ◆給油所の機能停止により燃料を入手することが困難に。 ◆放射線防護施設が損傷する。 そのうえで改めて被曝の問題に言及。原子力規制委員会の「原子力災害対策指針」ではIAEA(国際原子力機関)の被曝線量試算に基づき半径5キロ圏内は避難、5~30キロ圏内は屋内避難で被曝低減としているが、発災時に前記のような状況が起きて避難も屋内退避もできない場合、基準を上回る被曝をすることになると訴えた。 さらに、佐賀県も九電も「緊急時対応の検討の参考となる放射性物質拡散シミュレーションを行なっていない、もしくは公開されておらず、緊急時対応の実効性検証を妨げている」として独自に同シミュレーションを実施。その結果、放出開始から12時間後には避難退域時検査場所の多くが一時移転が必要になり、機能しなくなる可能性があると指摘。そもそも「国の一般公衆の年間被曝線量の限度は年間1ミリシーベルトのはずであり、緊急時はそれを超えてもよいなどという法的根拠は存在せず、過小評価だ」と述べ「玄海に限らず各地域で緊急時対策が作成されてきたが、機能するか否かが問題だった。実際に能登半島で地震が起こり機能しないことがわかった」として陳述を締めくくった。