コロナ補助金不交付「恣意的な判断働いている」芸術団体が国を提訴 行政不服審査会が「違法」指摘も審査請求棄却
「表現の自由」への萎縮「すでに感じている」
原告代理人の高井健太郎弁護士は、一部のイベントを補助対象外とした文化庁の判断に関して、主に3つの問題があると指摘する。 ①選別基準に「政治的または宗教的な宣伝意図を有する活動」を掲げることの適法性・合憲性 ②「政治的または宗教的な宣伝意図を有する活動」の選別基準が不明瞭であること ③行政不服審査会の答申を退けた合理的理由の欠如 特に③について高井弁護士は「処分も審査も同じ文化庁が担当しているからこそ、第三者委員会である行政不服審査会の答申を最大限尊重すべきである」と説明する。 太陽肛門の代表・小川正治氏は、「そもそも純粋に政治的中立な表現はあり得ず、あらゆる芸術に政治的な要素がある」と話し、近年の芸術やエンタメから政治性を排そうとする風潮に、強い危機感を抱いているという。 今回の補助金不交付の決定は、そのような風潮の中での忖度(そんたく)が働いた結果ではないかと捉えているとした上で、小川氏は「このような不明瞭な根拠での決定がまかり通れば、表現への萎縮効果をもたらす。定義が不明確なままでは、政治的な意図が一部含まれるものでも不交付にできてしまう」と語る。 また、表現の自由に対する萎縮効果については現に感じているとして次のように述べた。 「補助金の申請時、知人にこのイベント名では補助金が下りないのではと指摘されて、自分もそうかもしれないと思った。しかし、そこで(イベント名を)変えてしまうこと自体が(表現の自由を脅かす)問題だと思ってそのまま申請した。まさか実際にこういう結果になるとは思わなかった」(小川氏)
請求棄却の“裁決取り消し”求める理由
高井弁護士は、本件の類似例として映画『宮本から君へ』の助成金取り消し訴訟の例に言及。 『宮本から君へ』裁判は、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会(芸文振)」が同作出演者のピエール瀧氏の逮捕を受けて、助成金の交付を決めていたにもかかわらず、逮捕後に交付を取りやめたことは違法であるとして提起されたものだ。最高裁まで争われ、助成金の取り消しは不当であるとして、原告側が勝訴したが、この時も補助金・助成金の交付をめぐる行政の「裁量権」が争点となった。 「今回のケースでも、何が『政治的または宗教的な宣伝意図』になるのか、曖昧なままに行政側が裁量権を行使していると言える。本訴訟が、審査庁の請求棄却裁決の取り消しを求めるものとしたのは、この不明瞭な決定プロセスを明確にしたいとの意図があるからだ」(高井弁護士) なお、補助金不交付決定の取り消しを求める訴訟についても、後日併合提起予定とのこと。
杉本穂高