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マジョリティとセクシュアルマイノリティをつなぐ「通訳」となる一冊

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本がすき。

『LGBTとハラスメント』集英社 神谷悠一・松岡宗嗣/著 まさに「待望の一冊」というべき新書である。セクシュアルマイノリティの権利擁護の動きが活発になっている中、職場や学校、メディアにおいて、これまで問題化されることのなかった言動が、「LGBTへの差別」「ハラスメント」として認識・批判されるようになってきている。 「セクシュアルマイノリティに対する配慮が足りない」という理由で、テレビ番組や映画、企業広告が炎上することは、SNSの世界では既に日常茶飯事になっている。 誰もが自覚のないまま、職場や学校で、性的指向(Sexual Orientation)や性自認(Gender Identity)に関する侮蔑的な言動=「SOGIハラスメント(ソジハラ)」の加害者や被害者になってしまうリスクが広まっている一方で、LGBTとハラスメントをテーマにした入門書はこれまで存在していなかった。 「なぜこの言動がセクシュアルマイノリティへのハラスメントになるのか」という根本的な理由を理解せずに、表面的な対応や施策、NGワードの設定だけでやり過ごそうとする姿勢は、問題の解決につながらないだけでなく、かえってマイノリティへの誤解や抑圧を強めてしまうことになる。 マジョリティの抱えるモヤモヤやイライラをうまく言語化しつつ、マイノリティの置かれている立場や気持ちを説教臭くならない形で伝える、という「通訳」を務めることは、誰にでもできる仕事ではない。 そうした中で、マジョリティとセクシュアルマイノリティをつなぐ「通訳」として卓越した表現力を持ち、これからの社会運動の旗手になるであろう若手の著者らによって書かれた本書は、セクシュアルマイノリティを取り巻く現状、学校や職場でのハラスメントが起こってしまう構造や社会背景について学ぶための必携の一冊になるはずだ。 こうした評価を踏まえた上で、一点だけ私見を述べたい。帯のコピー『部長、「ウチにLGBTはいないから」は通用しません!』は、著名なフェミニストである牟田和恵氏の『部長、その恋愛はセクハラです!』(集英社新書)へのオマージュであろう。小島慶子氏の推薦文が寄せられている点も含めて、昨今のSNSを中心としたフェミニズム・ムーブメントの流れに乗ることを狙って販促の戦略が練られた新書であることは間違いないだろう。 私が著者や編集者の立場だったら、間違いなく同じ戦略をとる。現在の時世を鑑みれば、それが最も賢明な選択肢だからだ。 だが、短期的に見て最善の選択が、長期的に見て最善の選択になるとは限らない。フェミニズムはあくまで女性のための思想であり、セクシュアルマイノリティのための思想ではない。LGBTの問題は、フェミニズムだけでは解決できない。 フェミニズムと同じ戦略でLGBTに関する社会運動や啓発を進めていくことは、フェミニズムと同じ落とし穴に落ちたり、同じ壁にぶつかってしまうことを意味する。本来であれば闘わなくても良い相手を敵に回してしまったり、「フェミニズム案件」「左翼案件」と見なされることで、保守派から不要な誤解や反発を受けてしまうリスクもある。 セクシュアル・ハラスメントをはじめ、多くのハラスメントを社会問題化したのはフェミニズムの大きな功績である。そうした歴史に敬意を払う必要はあっても、フェミニズムに過度に忖度する必要はないはずだ。セクシュアルマイノリティの問題を解決することができるのは、フェミニズムから借りてきた言葉や思想ではなく、セクシュアルマイノリティ自身の言葉や思想なのだから。 本書がマジョリティとセクシュアルマイノリティをつなぐ「通訳」の役割を果たすことに加えて、LGBTムーブメントとフェミニズムを適切な距離感を保ちながら架橋する役割を果たすことを期待したい。

坂爪真吾

一般社団法人ホワイトハンズ代表理事 1981年新潟市生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。東京大学文学部卒。 新しい「性の公共」をつくるという理念の下、重度身体障がい者に対する射精介助サービス、風俗店で働く女性のための無料生活・法律相談事業「風テラス」など、社会的な切り口で現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰。 著書に『はじめての不倫学』『誰も教えてくれない 大人の性の作法』(以上、光文社新書)、『セックスと障害者』(イースト新書)、『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)、『孤独とセックス』(扶桑社新書)など多数。

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