夜の巡回休みなく 果樹産地・山梨で進む盗難対策 パトロールに同行取材
桃をはじめ夏の果実が出荷シーズンに入る中、産地が毎年、頭を抱えるのが農産物の盗難だ。本紙「農家の特報班」は国内屈指の果樹産地、山梨県内の盗難防止パトロールに同行。「丹精して育てた果実を守りたい」と強く願う農家のため、JA職員や消防団、地元住民、警察関係者らが結束し、防犯対策に奔走する姿があった。 【動画】昼夜のパトロールで果樹盗難を防ぐ 桃「日川白鳳」やブドウ「シャインマスカット」などの栽培が盛んな笛吹市。9月末まで毎日続ける夜間の盗難防止パトロールが6月中旬に始まった。 パトロール隊員は市や地元消防団、JAふえふき、JAフルーツ山梨、民間警備会社、地元警察の他、地元の空手道場やボランティア団体の関係者も加わる。 パトロール初日、笛吹警察署で開かれた出発式には、関係者ら約70人が集結。グループごとに、代表者が「行ってきます」と気合を込めて声を上げ、続々と巡回に向かった。
くまなく監視の目
「この地域は警戒が厳しいから、盗みに入るのはやめておこう」と思わせるため、行政やJAなどの団体は、昼夜のパトロールで不審者がいないかチェック。農家も防犯機器を設置し、自身の園地を守る。地域を挙げた対策で盗難防止を目指す。 夜の果樹園。収穫間近の実を付けた桃の木が並ぶ中、懐中電灯を片手に、木々の間も、くまなく見回る。笛吹市で始まった夜間の盗難防止パトロールの一場面だ。 異変がないかチェックするパトロール隊員は、一様に鋭い眼光を放って果樹園を巡回する。隊員の一人は「周囲の見通しが良くなくて、不審者が侵入しやすい環境の園地や、収穫間近の園地は特に警戒が必要」と話す。
こうした夜間パトロールとは別に、JAフルーツ山梨は独自に、下見に来る不審者対策として、青色回転灯を装備した車で日中も管内を巡回している。 JA営農指導部の久保田和成次長は「『普段から盗難対策が徹底されている』と犯人に思わせることが大切」と話す。 防犯対策はパトロールだけにとどまらない。南アルプス市で、サクランボや桃を約2ヘクタールで栽培する手塚有紀さん(35)は、園地に複数台の防犯カメラや人感センサーを設置する。サクランボ約20キロを盗まれた経験から「対策にやり過ぎはない」と語気を強める。 機器の導入に当たっては、JA南アルプス市が協力。侵入者を感知すると赤色灯とサイレンで警告し、園主にメールで連絡が来る。導入以来、盗難被害はないが、「気を緩めることはできない」と今年も警戒感を強める。 県によると2023年の農産物盗難は15件、被害額は168万円に上った。収穫作業に追われ、「被害届を出すのを見送る農家も少なくない」(産地関係者)といい、実際の被害規模は公表されている数字以上に大きい可能性がある。(志水隆治、撮影=山田凌)
日本農業新聞