THE COLLECTORS加藤ひさしインタビュー。モッズを愛し続けた男のダンディズムについて
26枚目となるオリジナル・アルバム『ハートのキングは口髭がない』をリリースするTHE COLLECTORS。御年64歳を迎える加藤ひさし(ヴォーカル)の詞曲はさらに冴え渡り、その口の悪さとは真逆の、少年らしい瑞々しさにあふれた部分と、歳を重ねてもまだ理想にたどり着けない自分への苛立ちが、非常にいいバランスで描かれて、今まで以上に加藤ひさしのカラーが強い。
そして今回、アルバムと同時発売となる彼の自伝本『イギリスカブレ』の編集・インタビューを担当して思ったのだが、この人は本当に自分に自信が持てない人だ。それは学生時代からそうで、ダサいヴァイオリンベース、志望してない大学への入学など、すべてにプライドが持てないでいた。しかしそんな自分が、唯一自信を持てたもの、日本で自分が一番だと思えたもの。それがモッズだった。どうなっても、それだけは手を離さなかった。その意地みたいなものが邪魔をしてるところも多分にあるが、だからこそこの歳まで第一線でバンドをやり続けることができた、その理由なのだろう。相棒、古市コータロー(ギター)のインタビューと共に、加藤ひさしという男の〈ダンディズム=やせ我慢〉について。
モッズは寂しいなんて口に出さない
ーー『イギリスカブレ』の取材と校正、お疲れ様でした。 「終わってよかったね。本当は還暦でやるべきだったんだけど」 ーーこの4年で円安が加速して、制作費はほぼ2倍に膨れ上がっております(泣)。 「そう言うなよ(笑)。そもそもは俺の視点から見た旅行ガイドブックを作って、その中に自伝的な要素を加えたいと思ってたんだけど、お前が自伝メインでって言うから」 ーー加藤さんの企画だと、取材は60ヵ所以上、ページはオールカラー。試算したら、イギリスに1ヵ月近く滞在しなきゃいけなくて、400ページ超え。1冊2万円くらいになります。 「じゃあ続きは第2弾でやろう」 ーーえー……26枚目のアルバムが出ますね。 「まず、2024年はすごく忙しくて、自分の中にアルバムのコンセプトみたいなものが思い浮かばなかったんだよね。だから自分の中に浮かんできた曲を、そのまま素直にパッケージしていこうと考えたんだよ」 ーーでも何らかの方向性は必要ですよね? 「そう。で、たまたまそのタイミングで、ビートルズのベスト盤、青盤と赤盤のリマスターが出たんだよ。それを夢中で聴いてたら、赤盤に収録されてる初期の彼らのような、明るくて潔い曲を並べたいと思ったんだ。で〈Hold Me Baby〉と〈シルバーヘッドフォン〉を書いたんだけど、でも各国で戦争が始まってて世界は不穏なムード。景気もよくない。そんな中で能天気な恋愛ソングを作ることに、無理を感じてきて」 ーーなんかリアルじゃないというか。 「うん。暗い世の中を明るく元気にできるんじゃないかと思ってたのに、無理があるから作品が光ってこない。だから日々、自分が感じてることを歌にしようと思って〈ガベル〉みたいな〈もう地球が終わるんだよ、みんなが自分勝手なことばかりしてるから〉って歌を書き始めたら、生き生きとしてきた。そんなリアルな感情が自分を突き動かすんだなって、改めて思った」 ーーリアルにはこだわりますよね。もう38年もやっていれば、昔のイメージを売りにして続けていく人も多いのに。 「昔がいいなっていう気持ちはないんだよ。〈世界を止めて〉を毎回ライヴで唄うの、いまだに抵抗があるからね、だから今度始まるツアーでも、アルバム全曲やりたいってコータローに言ったんだけど、『全曲は多い』ってバッサリ(笑)」 ーー加藤さんはもうすぐ64歳ですけど、20代の瑞々しさを持ってるんですよね。それと同時に、歳を重ねてにじみでてくる良さもあるのに、それは拒否し続けるじゃないですか。 「だってあんまり嬉しくないから」 ーーどんだけ、娘さんの歌を出しましょうって言っても聞いてくれないし。 「〈パパは博物館の館長さん〉ね。あれは娘を持ってる全国のお父さんが泣く歌だから」 ーーコータローさんも「なんで出さないの」って言ってんのに。 「それを出しちゃうと、さだまさしになっちゃうから。俺はピート・タウンゼントになりたいの!」 ーーそういう自分の何らかの弱さや、悔しさみたいなものを生々しく出すことを嫌がりますよね。 「それを売りにしてるように見えるのが嫌なんだよ。昔〈SONG FOR FATHER〉って曲で親父の死を歌にしてみたけど、どうしても嫌で寝かしておいたら、コータローが『こういう歌入れたほうがいいよ』って言うから、次のアルバムに入れたの。デモテープのままね」 ーーそのへんが加藤ひさしのモッズ魂であり、失礼な言い方をすると、コレクターズが売れない理由のひとつですよね。 「自伝読み返しててもそう思ったよ。俺、加藤ひさしは頑固で友達のいないヤツじゃないといけない、って自らそうしてる可能性があると思ったもん」 ーーそれ、ちょっとわかる気がします。 「だから友達も増えない。増子(直純/怒髪天)は唯一俺にメールくれるミュージシャンなんだけど、彼からのメールすら減ったからね。すごく寂しい(笑)」 ーーその寂しいって気持ちを歌にすればいいじゃないですか。 「バカ野郎。モッズは寂しいなんて口に出さねえんだよ。それがダンディズムなの。寂しい気持ちを噛み締めたら、次に増子に会った時、嬉しさ倍増じゃん」 ーーなんか気持ち悪いけどいいですね。アルバムは、ラストの「ランドホー!」がグッときますね。 「これはね、NHKで『ビートルズとその時代』っていうドキュメンタリーをやってたのよ。その中で、『ビートルズってどんなバンドだったんだ?』って質問にジョン・レノンが答えてたの。ジョンは『ビートルズは別に革命的なものを起こしたんじゃない。60年代は、みんなが新しいものを欲しがってたんだ。ビートルズは船のいちばん高いところにある見張り台にいて、大陸が見えたから〈ランドホー!〉って言っただけだ』って」 ーー〈ランドホー〉は海賊が島を見つけた時に叫ぶ言葉ですね。 「俺たちも新大陸を見つけたくてずっと航海をしてる。これを歌にしたいと思ったんだよ。でもなかなかたどり着かない」 ーー40年航海してたら疲れませんか? 「疲れるよ(笑)」 ーーあの島は幻なんだな、って思いませんか? 「それがないんだよね。俺は知ってるんだよ。知ってるけど見つけてないだけ。俺、知ってるんだ、たぶん」 ーーたぶん見つけられないまま、倒れて後ろを振り返ると、メンバーやファンがいて。〈あ、これだったのか……ランドホー〉って呟いて死んでいくんですよ。 「それはいい映画になる(笑)。それに気づけて死ねたらいいな」 ーーっていうか、もうわかってるんじゃないですか? 「いや、本当にわかってない。武道館だってさ、ある意味〈ランドホー〉じゃん。ピロウズ、怒髪天、フラカンから背中を押されてさ。普通の人は感謝すると思うんだよ。でもスイッチが入ると、〈俺たちはお前らとは違うから、見てろよ〉ってなって、気分はリアム・ギャラガーになっちゃうんだよ」 ーーなるほど(笑)。 「このレコーディングでも、デモを10曲メンバーに聴かせて、プリプロやって、さあレコーディングに入るかって時に、みんながお仕事的になってるように見えたの。そうなった瞬間スイッチが入って。『明日もう1曲持ってくるからな』って言って、〈スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない〉を作ってきたわけ」 ーーでもそれ、自分の首を締めません? 「そうなんだよ。帰ったら作詞しなきゃいけないし、みんなも『おいおい、嘘だろ』ってなってる。でもどっかで〈リーダー、面白いの作ってくるからな〉ってのがある。逆に俺がこれをやらなくなった時は、終わりだと思ってるよ」 ーー僕はモッズな加藤ひさしではない、そういう人間的な魅力を、もっと見たいと思いますけどね。 「俺、真逆なんだよね。例えば昔の映画監督って、何百時間ぶんのフィルムから、100分の1を使って作品を作るじゃない? でも今の監督ってその残った部分も見せたがる。でもその残った部分を見せると、最初の濃いところが薄くなっちゃうからさ。俺はそこしか見せたくないのよ」 ーーでもビートルズに喩えるならとしたら、捨てたはずの音源が「フリー・アズ・ア・バード」になったじゃないですか。 「俺はあれがいいと思わないんだよ。ジョン・レノンがあの曲をボツにしたってことは、みんなに聴かせたくなかったんだよ。生きてたら、たぶん許可しないと思う。みんなは俺の捨てた部分まで見たがるけど、ジョン・レノンは見せたくなかったから捨てたんだもん」 ーーなるほどね。じゃあ最後に『ハートのキングは口髭がない』というアルバムタイトルはどこから取ったんですか? 「これは〈スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない〉のタイトルを決めた時、ちょっとシャレでね、〈●●●キングは●●がない〉って入れようと思ったの。で、〈バーガーキングにはテリヤキがない〉って唄ってみたら、テリヤキバーガーがあったんだよね(笑)」 ーーわははははは! 「他にも〈クリスタル・キングはヴォーカルがひとりいない〉とか(笑)、いろいろやっていったの。で、そういえばトランプに、ハートのキングってあるなと思って調べてたら、ハートのキングだけ口髭がないって知ったわけ。これはみんなきっと知らないだろうなと思って、それで考えたわけ。そしたら、やっぱりキングって王様で、昔から世の中を牛耳ったり、国を動かしたり、そういう権力のある人でしょ。で、口髭って男の象徴で、それこそ暴力的な、戦争を始めるようなイメージがあるじゃない。王様で威張ってる感じ。でもハートってラヴの象徴でしょ? ラヴの象徴の王様は威張ってないんだって」 ーー同じキングでもハートのキングは。 「俺はこれがラヴ&ピースなんじゃないの?って思ったわけよ。これは歌詞としてもいいし、タイトルにするんだったら、ラヴの王様は髭なんか生やさないし、威張らないんだよ、戦争なんかしないんだよ、って。そういうのと繋がるんじゃないかと思って。おもしろいタイトルになるな、って」 ーーいい言葉ですね。 「それでさらに調べていったら、昔は版画みたいにトランプの彫り師がいて、それが王様の顔とか彫ってたんだけど、ハートのキングだけ間違えて、髭を削っちゃったらしい。ハートのキングだけ(笑)。これはアルバムタイトルに最高だなと思って」 ーー『バーガーキングはテリヤキがない』にならずによかった。 「いや、本当によかったよ」
金光裕史(音楽と人)