<孤独死の打開策になるか?>増加する独居高齢者の幸せな生活実現にソーシャル・キャピタルを活かせ
まちづくりへのボランティアの参加は地方が都市の3倍
最後に総務省の『社会生活基本調査』により、人々のボランティア活動の状況が、地方と大都市でどの程度異なるのかを見ることとする。社会生活基本調査は総務省によって5年毎に行われる日常生活の行動状況に関する調査である。最近の調査は21年に実施されたが、集計結果がまだ公表されていないため、16年の結果を見ることとする。 社会生活基本調査の調査項目のうち、「報酬を目的としないで自分の労力、技術、時間を提供して地域社会や個人・団体の福祉増進のために行う活動」はボランティア活動と定義され、具体的には、健康や医療サービスに関係した活動、高齢者・障害者・子供を対象とした活動、スポーツ・文化・芸術・学術に関係した活動、まちづくりのための活動、安全な生活のための活動、自然や環境を守るための活動、災害に関係した活動、国際協力に関係した活動などが挙げられる。 これらの活動の行動者率を地域の規模別に示したものが、図4である。高齢者と子供を対象としたボランティア活動、まちづくりに関するボランティア活動、そしてその他の活動も含めたすべてのボランティア活動の行動者率(%)が示されている。 図4を見ると、大都市よりも人口規模が小さくなるにつれて、ボランティア行動者率が高くなっていく傾向がわかる。特に、高齢者を対象としたボランティア活動は、大都市で2.3%であるのに対し、町村では2倍近い4.4%であり、まちづくりに関するボランティア活動は大都市6.2%であるのに対して、町村は3倍以上の18.8%となっている。 このことから、ボランティア=無償での地域サービスが地方の小さな規模の社会でより多く行われていることが指摘できる。
地方を支えるソーシャル・キャピタルの力
地域の繁栄の要素として国際的にもソーシャル・キャピタルが重要視されている。日本では個人に対するアンケート調査の結果から、人口規模の小さな地域でソーシャル・キャピタル指数が大きいという結果が得られている。そこで、孤独死、特殊詐欺、ボランティア活動などを例にとって、地域別の状況を見たところ、地方部や人口の小さな町村ではソーシャル・キャピタルによって、これらの指標に好ましい傾向がみられることが分かった。 地域の人口減少や過疎化は、市場経済を通じた生活資源の供給に不利な面を持っている一方で、非市場経済活動を通じた財やサービスが提供される素地となるソーシャル・キャピタルが地方の方が多く存在するのであれば、地域の持続可能性を市場経済による指標だけで判断するのではなく、ソーシャル・キャピタルも加味して考えてゆくことが必要といえる。 今後、このソーシャル・キャピタルを高めるためには、昨今のコロナ禍で薄れつつある個人と個人のコミュニケーションや地域での交流活動を回復させていくことや、営利・経済活動と非営利・私的活動のバランスを取るために企業や組織がワークライフバランスを重視していく社会にしていくことが重要である。また、逆にITの発展により空間の制約を超えた人口交流が活発化されれば、都市部と地方部を互い含むソーシャル・キャピタルの形成も可能であると考えられる。 さらに、ソーシャル・キャピタルは市場で供給されないモノを補完してくれるだけではなく、人々の幸福感や豊かさ、満足度を高める役割も持っている。内閣府の幸福度に関する研究会報告書では、幸福度に関する3つの柱として雇用や家計などの「社会経済状況」、精神的・身体的な「健康」、そして家族や地域とのつながりなどの「関係性」を上げている。 したがって、ソーシャル・キャピタルを高めることは、高齢化や人口減少に直面する地方の持続可能性を高めるという量的な側面だけでなく、それを通じて地域全体の豊かさや満足度を高めるという質的な重要性を持っているといえる。
吉田浩