なぜラグビーW杯開幕を前に日本代表SH流大は宿舎近くでのサイン問題をツイートしたのか?
ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会が9月20日、開幕する。7日には東京・秩父宮ラグビー場で日本代表の壮行会が開催され、約5100人のファンがチームスローガンの「ONE TEAM」の人文字を作ってエールを送った。 開催会場のある地域では開幕を知らせるのぼりやポスター、建物のラッピングが目立ち、盛り上がりの可視化が顕著だ。競技の注目度が急速に高まりつつあるなか、1人の日本代表選手が短文投稿サイトのツイッターでこうつづった。 「ホテルから出た所やホテルからカフェへの道路で待っててサインや写真を求められるのはちょっと。ずっと監視されてるようで。。応援していただいてるのはありがたいけどちょっとだけ配慮してもらえると助かります(原文ママ)」 提言の主は流大。今回、初めて大会登録メンバーに入った27歳だ。 接点から球をさばくスクラムハーフとして身軽さと好判断からなるキックを長所とする流は、練習でいいプレーをした味方を褒める、シャイな仲間に声をかける、時に首脳陣へ「メンバー外の人とも話して欲しい」と具申をするなど、グラウンド内外における調整力も買われる。 帝京大では大学選手権6連覇時の主将。現所属先のサントリーでも、入社2年目の2016年度に主将を任された。日本代表入りはその翌年度で、若手主体のチームでテストマッチデビューしたその日にゲーム主将を務めている。 今度も、大会初出場ながらリーチ マイケル主将らとリーダー陣を組んで家族的雰囲気のチームを前に進めたいとする。そんな流が今度のツイートを世に示したのは9月1日。8月29日に決まった大会登録メンバー31人とバックアップメンバー数名により、都内で練習をスタートさせたばかりの頃だった。
「ちょっとだけ配慮していだだければ」
この日の壮行会やその後の結団式を経て行われた取材機会で、改めてその心境を語った。口頭で発すると、文面でつづる以上に当人の申し訳なげな様子が伝わる。 「ファンに対しての思いは強く持っていて、今年になってからも本当にファンを大事にしようと、強く言ってきました。だから(選手に触れたいファンの)気持ちはわかりますし、嬉しいことでもあります。でも…」 流の言葉通り、多くのラグビー選手はファンサービスの熱心さで知られている。 W杯3大会連続出場となる田中史朗は、若手時代に「Facebook」で情報交換のための「ラグビーファミリー」を設立。田中と同世代の堀江翔太は「人気のない頃も知っているのでね…。そりゃ、なかには失礼な人もいますけど、その方も含めてファンなので」と大らかに語る。確かに2015年のイングランド大会で日本代表が3勝するまで、ラグビーの報道量は限られていた。 日本大会の開催年に入ってからも、若手の姫野和樹が練習後のグラウンドでファン対応ゾーンを通らない後輩へ「ねぇ、こっち通らんの?」と声をかけるなど、真摯な姿勢を示す。 流も合宿を観に訪れた観客へ、長時間に渡って写真撮影やサインで対応。自国開催の意味を肌で理解する。 今回のツイートへのファンの反応は、肯定的な意見がほとんど。なかには心無い反応もなくはないが、流は「ファンを大事に」という思いを前提に発信した。 「ホテルはいま、僕らにとっての自宅でもあるんです。それ(プライベートでのファン対応)がめちゃくちゃ嫌だというわけではないんですけど、ちょっとだけ、ちょっとだけ配慮してくれれば。ほとんどの選手がジェントルマンなので対応はしてくれると思います。ただ、そうじゃない選手がいることもわかって欲しいです」 おそらく仲間によっては、命運を分ける試合前日のリラックスタイムでも見知らぬ客人の要求に応えるだろう。だが、今大会は、ゲームでの集中力を保てなければ、目標達成は容易ではない。日本開催のプレッシャーもある。ベストの環境を整えるために何が必要かを考え、流は反論が来るのを承知で選手団の代弁者となったのだ。