篠山紀信、大いに語る【後編:平成~次代】ネットで味わえない体感する写真へ
ヘアヌードブーム渦中、加納典明と異なる立場の篠山流
『Santa Fe』は発行部数155万部と、発売から27年を経てもいまだその記録が破られない伝説的なヒット作となった。まもなく週刊誌や月刊誌のグラビアでもヘアが当たり前に掲載されるようになり、時代が一気に動いてゆく中で、篠山とともに世間の注目を集めた写真家がいる。加納典明だ。93年に加納は『月刊THE TENMEI』を創刊、94年には写真集を発売したが、一連の過激なヌード表現から95年にわいせつ物に当たるとして逮捕されている。篠山が時代とともに走り抜けていく写真家なら、加納は時代と戦う写真家だったのかもしれない。ともにヌードで同じ時代を揺るがした有名写真家だが、そのスタンスの違いが興味深い。 「加納さんは非常に刺激的な作品を作って、それがおかみの目にふれたときに反発するような態度をとった。でも僕の場合は表現の自由を獲得しようとか、おかみに対し物申すとかは、ぜんぜんない。普通に自由に、そこに在るものが在るように、それが美しいものとして受け入れられるのであれば構わないだろう、と」 本を売る側の緻密な仕掛けはあるにせよ、写真家としての篠山はあくまでその時代に突出したものに寄って行って、一番よい角度、タイミングでシャッターを押すという自身の流儀のまま作品を生み続けているだけだ。
写真家とモデルのスタンス 沢渡朔『ナディア』は名作だが…
約半世紀に渡り多くの女性を撮ってきた篠山だが、モデルとのスタンスや関係性についてはどのように考えているのか。 篠山と日大芸術学部の同期に、沢渡朔がいる。女性ポートレートで日本を代表する写真家の一人だが、70年代に出会ったイタリア人モデルのナディアを撮った写真集は2人の濃密な関係性のうえに成り立っている。女性を撮る場合もあくまで時代の中で突出したものに寄っていく篠山とは、ある意味、対照的に見える。 「『ナディア』は名作ですが、沢渡さんという写真家は、女性を愛して、本当に好きになって撮ったときが一番いいんですよね。僕も撮る女性のことを嫌いなわけじゃありませんが、必ず相手に恋して撮るというには、僕のペースだとあまりにも人が多すぎますよね」 大笑いする篠山だが、確かにその通り。次から次へと時代とともに走り続ける篠山のカメラの前に立つモデルの人数は、数えきれない。