朝倉海の一本負けを「世界のTK」髙阪剛が分析 勝負を分けた「ふたつのポイント」とは?
――以前、髙阪さんは「トップレベルの選手は試合中に戦い方を変えてくる」とおっしゃっていましたが、パントージャ選手もそんな感じでしょうか? 「そうですね。2ラウンドは、1ラウンドの入りより少し速いピッチで入ってきました。『ギアがいくつもあるんだ』と驚かされましたね。ああいう戦い方をされたら誰でも翻弄されると思います。パントージャは、やるべきことを淡々とこなしていた印象ですね」 ――パントージャ選手のプレスを受けて、海選手が真っすぐ下がる場面が見受けられました。サークリングなどで横に動くことも難しかったのでしょうか? 「パントージャは横に動くのも速いんです。海選手が横に動いてもすぐについてくる。プレスをかけて相手に本来の動きができないように持っていく。そこがパントージャのうまさでもあります。攻めの細かい技術、引き出しが多いんですよ」 ――2ラウンドのフィニッシュシーン。バックを取られて足4の字でロックされました。海選手はどんなディフェンスをしたかったのでしょうか? 「バックチョーク、バックマウント、バックキープをする側で大事なのは『ロックしている足』と『首を取る腕のバランス』です。バックを取る側は、首に手をかけようとする際に足がルーズになる。逆に、しっかり足をかけようとすると、首に手をかけるのが遅くなる。この繰り返しなんですよね。 海選手がバックに回られる前、スタンド状態の時に自らロール(前転)したのも対応のひとつです。自からスクランブルを起こすことで、一瞬プレッシャーが緩むので、その隙に上を取り返すのが理想。そうでなくても、首と足のディフェンスが可能な状態になることもありますから。4の字になってからは、首と足のディフェンスを同じパーセンテージで意識してディフェンスしていたと思います」
――海選手からすると、4の字を外して脱出するというよりは、ラウンドの残り時間を凌ぐことが最優先になるのでしょうか? 「そうですね。パントージャの最も得意な形ですし、4の字がしっかりかかっていましたから、外すのはかなり難しいです。海選手は最初、パントージャの左手を脇で挟み、両手で相手の右手を持ってディフェンスしていました。ただ、脇が一瞬緩んだ際、パントージャは素早く左腕を抜いて首に巻きつけました。 海選手もパントージャが締めにくいように体を右に回したのですが、パントージャは左腕から右腕に切り替えてリアネイキッドチョークをセットした。海選手は、今度は左に体を回して両手でパントージャの左腕を剥がしにいったんですけど、あれは正解のディフェンスです。 ただ、やはりパントージャはうまかった。剥がされている左腕の上腕二頭筋あたりをつかんでヒジを引きながら、自身の右肩で海選手の頭を押して圧迫しました。これでフィニッシュという流れです。あの形から締めきるのは、相当に熟練した技術がないとできません。固めながら少しずつズラして締めていくという感じでしたね」 (後編>>) 【プロフィール】 ■髙阪剛(こうさか・つよし) 学生時代は柔道で実績を残し、リングスに入団。リングスでの活躍を機にアメリカに活動の拠点を移し、UFCに参戦を果たす。リングス活動休止後はDEEP、パンクラス、PRIDE、RIZINで世界の強豪たちとしのぎを削ってきた。格闘技界随一の理論派として知られ、現役時代から解説・テレビ出演など様々なメディアでも活躍。丁寧な指導と技術・知識量に定評があり、多くのファイターたちを指導してきた。またその活動の幅は格闘技の枠を超え、2006年から東京糸井重里事務所にて体操・ストレッチの指導を行なっている。2012年からはラグビー日本代表のスポットコーチに就任。
篠﨑貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro