祝・TAB20周年!スタッフ7人で語る座談会【前編】日本最大級のアートメディアで働くみんなのキャリア形成、TABの歩み、いま考えていることとは?【Tokyo Art Beat 20周年特集】
TABスタッフはどんな人? TABとの出会いや仕事内容
井嶋遼(インターン):今日はTokyo Art Beat(以下、TAB)の20周年記念の座談会ということで、私が気になることを編集部の方々に勝手に聞いちゃおう!という会にしようと思っています。自己紹介ですが、私は2024年3月から編集部のインターンとして参加している井嶋です。いま大学で美術史の研究をしています。 では、改めてまずは皆さんの自己紹介とTABを知った・参加するようになった経緯を教えてください。 田原新司郎:株式会社アートビート取締役で、ブランドディレクターをしています。2009年秋にTABに入りました。当時はまだNPO法人の小さな組織で、スタートして5年目ぐらいの時期です。2005年頃に1周年アニバーサリーパーティがあり、そこに遊びに行ったときに当時のTABのメンバーと知り合いました。 最初にTABを知ったきっかけは、ITジャーナリストの林信行さんのブログで紹介されていたことですね。いろいろな方がボランティアとしてTABを支えているということを知りました。自分としてもアート業界に入りたいという思いがあったので、当時はバーテンダーや翻訳など仕事を掛け持ちしながらボランティアで手伝いを始めました。その後藤高晃右さん(Tokyo Art Beat、NY Art Beat共同設立者)が関わっていたアートフェアのお仕事に参画したことや、同じく共同設立者のポール・バロンさんに誘われたことを経て、スタッフになりました。当時のTABの周辺は日本にいる外国人がとても多く集まるコミュニティだったので、すごく刺激的でした。 井嶋:TABはもともと前述のおふたりとオリビエ・テローさんの3名による共同設立ですね。ちなみに、個人的な興味関心もみなさんにお聞きしたいんですが、しんさんは? 田原:学生のときから写真を撮っていて、写真展を見に行っていたことがアートにつながるきっかけでした。2004年「ヴォルフガング・ティルマンス:Freischwimmer」(東京オペラシティ アートギャラリー)の展覧会で衝撃を受けて、それまで写真業界が好きになれなかったし、アートって斜に構えているような印象があったんですが、表現としての自由さが素晴らしいなと興味が出ました。 福島夏子:しんさん(田原)は、ブランドディレクターという偉そうな肩書きにかかわらず(笑)、いまも記事のための写真を撮ったり細かい仕事もやっていて、なんでも屋さんとしてTABを長年支えてきた底力を随所で発揮されています。 井嶋:では社歴順に次の方お願いします。 諸岡なつき:TABのマネージャーをやっている諸岡です。2015年9月から参加しています。TABとの出会いは、大学進学をきっかけに福岡から上京して、美術展を調べる際にいちユーザーとしてサイトを利用していました。前はWAITINGROOMというギャラリーでインターンをしていて、その後2012年頃からTABのインターンになりました。その後、前任のマネージャーの方が辞められるというタイミングでスタッフになりました。 「個人的な興味関心」でいうと、料理と食、あとマンガが好きです。工芸、陶芸とか実際に使用するようなものも好きです。 野路千晶:マンガはどんなジャンルが好きなんですか? 諸岡:難しい質問! 最近だといちばん感動したのが『宝石の国』ですね。あと、『ドカベン』も最近読み直して感動しました。 村上万葉:展覧会情報掲載の担当をしている村上です。私の場合は、インターンからアルバイト、社員となったので、入社自体は2018年2月ですね。当時TABのインターンは3ヶ月タームで入れ替わる体制で、武蔵野美術大学の油絵学科に在籍していたとき、同級生からTABのインターンを紹介されたことがきっかけです。油絵学科のなかでインターンをする人は稀だったんですが、私自身、大学卒業後に作家活動もしながら就職すると決めていたので、インターンをやろうと自然と思いました。 福島:まよさん(村上)は、展覧会情報の登録の仕事が凄まじく速くてうまい、という腕を見込まれて、次第にこの仕事を一手に任されるようになったと聞きました。 村上:ちょっとずつ業務を増やしてもらって、気づいたらまるっと全部やっているというような状態になっていましたね。 「個人的な興味」は、いま編み物にハマっています。毎日どんなに遅くに仕事が終わっても、寝る前30分帽子を編んでいます。自分では帽子は被らないのに、ひたすら編んでます(笑)。 井嶋:TABのインターンっていつ頃から始まったんですか? 野路:私、じつは初代インターンなんです。いい話の流れですね(笑)。 一同:あはは! 野路:インターンは2010年1月から始まって、私は初代として4ヶ月働きました。当時20代半ばで、新卒働いていた文化施設を3年ほどで退社し、留学しようかなと思っていたときにTABのインターン求人をTwitter(現X)で見つけました。当時はアートポータルサイトがほとんどなくて、私自身も情報はTABから得ていたし、国際感覚溢れる雰囲気が感じられたので「TABに行ったらアートにも英語も親しめてよさそう」と思って応募しました。 田原:当時はすごい倍率だったよね。枠は3人だったけど、応募は50人以上。 野路:そうそう。そのうち1名とはいまでも親交がありますし、楽しい思い出の詰まった良い経験です。その後はまた文化施設に戻って、大学院に進学し、『美術手帖』の展覧会情報を集約した「アートナビ」を経てウェブ版編集部で勤務しました。そこで日本のアートメディアとしての可能性を感じ、新たな環境を探していた矢先、TABのメンバーに再会、縁あって2019年末に参加することになりました。そのときTABは記事を強化していきたいという思いがあって、その部分で私の思いと合致したんです。 「個人的な興味」は、音楽が好きです。昔からディアンジェロやフランク・オーシャンらのブラックミュージックが好きで、いまはとくにアフロフューチャリズムと言われるジャンルの音楽を追っています。あとは日本のヒップホップも聞きます。 井嶋:最近イチオシのアーティストは? 野路:JUMADIBAっていうラッパーですね。浮遊感のあるトラックと気負いのないラップ、言語感覚が面白くて注目しています。 ハイスありな:私は2008年に来日しました。専門学校に通っていた頃、まったく日本語が話せないコロンビア人の友達が教えてくれたことがTABを知ったきっかけです。2010年くらいですね。そこからずっとTABのアルバイト募集が出ないか定期的にチェックしていて、2021年にインターンとしてTABに入りました。 留学ビザで日本に来ていたのですが、(出身地のロシアの)戦争の関係もあり日本での留学を続けることが難しいとなった矢先、TABに正社員として入社することになりました。担当は、翻訳家・エディターとして英語版のページを担当していています。インターンのときは展覧会情報の登録や翻訳を担当していました。 「個人的な興味」は、大学院、博士課程での研究領域が自分の趣味でもあります。社会学を研究していて社会学をアートとしてどうやって展開できるかを研究しています。あとは人間より動物が好きで、動物といた方が楽しいです。 福島:2021年10月からTABに勤務していて、記事の編集を担当しています。その前はずっと雑誌の編集をしていて、新卒で『ROCKIN'ON JAPAN』、その後『美術手帖』編集部で勤務していました。野路さんとは『美術手帖』のときから部署は違うけど同僚で、なつきさん(諸岡)も、短期でアルバイトに来てくれたことがあって、その頃から知り合っていました。 TABを知ったきっかけは思い出せないんだけれど、ウェブブラウザよりもアプリの印象がありますね。iPhoneが登場した初期の頃はいまほどアプリが充実していなくて、アートやカルチャーに特化したものやオシャレな雰囲気なものはあまりないなかで、TABのアプリは目をひきました。アプリはいつからあるんでしたっけ? 田原:2010年かな。 福島:当時は日本における現代アートがポップ化したというか、身近な存在としてアクセスしやすくなった雰囲気がありました。TABは2004年設立ですが、前年に森美術館が開館し、清澄白河のギャラリー群が話題のスポットだったり。そういう流れのなかで、私も現代アートに興味を持つようになったんです。ロゴと誌面デザインが刷新された『美術手帖』を定期購読したり、真面目に吸収しようとしていた(笑)。 大学では西洋美術史を専攻していたので、美術館は元々よく行っていたけれど、現代美術の展示やギャラリーはメディアを通じて興味を持ち始めたと思います。 「個人的な興味」は、結局のところ誰かの作った創作物を見るのが好きですね。映画、本、マンガ、音楽とか、そういうものに関わりたいという思いで編集者になりました。最近は忙しくてあまり楽しむ時間がないですが……。いまやりたい・趣味にしたい候補は太極拳で、でもハウスダンスを習いたい気持ちがあって、どっちを習うかで迷ってる(笑)。 井嶋:若い世代からすると、TABはウェブメディアっていうイメージが強いと思うんです。いまのように展覧会情報と記事の2軸で進むようになったのはいつからなんでしょうか? 諸岡:千晶さん(野路)が入ってくれてからですね。 田原:元々「TABlog」っていう名前で2005年くらいから記事自体は始まっていたんですが、ほぼボランティアベースで書きたい人が書くという感じだったから、なかなかうまいように続かないという状況があって。でもアートのメディアとして社会と接続された記事を届けられるような編集部を立ち上げたいと思っていたところ、千晶ちゃんに入ってもらって体制を整えられるようになりました。 野路:2021年秋のTABのサイトリニューアルにも、すごく気合いを入れて取り組みました。そのタイミングで福島さんも入ってくれて、リニューアル前は情報サイトというイメージが強かったところから、記事も目立つようになった転換点かなと私は思います。そこから認知も大きく拡大していきましたし。 諸岡:リニューアルに先立って、21年2月にTABがNPO法人からスタートバーンに合流し株式会社化したことが、個人的にはターニングポイントだったなと思います。前はそれぞれが自分のペースで活動していたところから、会社という組織になり、人の入れ替わりもあって自ずと雰囲気も変わりましたね。 井嶋:TABの昔の記事を見ていて、衝撃的だったのが2011年「展覧会に合わせたドレスコードで、アートを見に行こう!」という企画でした。 福島:写真にピチピチのしんさんいるな! 諸岡:「メタボリズム・ファッション!」という企画もありました。NPOのときのTABの雰囲気ですね。