「アルツハイマー型認知症」が重症化しやすい人の決定的特徴
認知症の治療には早期発見が重要です。ここでは認知症全体の6割を占める代表的な疾患「アルツハイマー病」に着目し、早期発見・早期治療がその後の経過にどれだけ影響するのかを見ていきましょう。認知症の専門医・旭俊臣医師が解説します。
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早期発見できるか否かが「その後の重症化」を左右
アルツハイマー病は今のところ、不可逆的、つまり進行を止めたり治したりする方法は確立されていません。しかしそれは、何をやっても無駄、何をやっても悪くなる一方、ということを意味しているのではありません。 図表1は、アルツハイマー病の治療・ケア開始時期とその後の重度化との関係をモデル化したものです。 このように、診断や治療の開始が早期であればあるほど、症状の進行はゆるやかになることが分かっています。初期のうちに介入すれば、そうでなかった場合と比べ、心理機能・運動機能ともに改善することもある――これはアルツハイマー病以外の認知症にも当てはまります。 さらに、認知症は環境の変化や精神的なショック、身体合併症による入院などによって、急に状態が悪化することがあります。認知症を進行させる要因をできるだけ排除するとともに、適切なタイミングでケアを行えば、進行を防ぐこともできるのです。 近年は薬物治療が進歩し、記憶障害の進行を遅らせたり、BPSDを抑えたりするのに著効が期待できる薬も登場しています。しかしこれらも、病気が進んでからの投与では効果が望めません。 また、グループワークを中心とした入院デイケアや通所リハビリも認知機能や運動機能の維持、改善に大きな役割を担えることが分かってきています。病気そのものは進行性であっても、こうした薬物治療やリハビリを導入することで、表に現れる症状をコントロールすることは十分可能なのです。 ここでいう「症状のコントロール」には、急な重度化を防ぐという意味と、暴言や暴力といった介護者にとって多大な負担のかかるBPSDを改善するという2つの意味があります。 介護者にとって大変な中期の段階でも、適切な治療とリハビリでBPSDの出現や重度化、中核症状である記憶障害の進行を抑え、介護者との良好なコミュニケーションをとれる状態にすることは可能なのです。 症状が“足踏み状態”、すなわち安定すれば、本人も介護者にとっても楽であることは明白です。 早期に診断されれば、適切な対応やケアの仕方を十分に勉強したり話し合ったりする時間もとれます。また、介護サービスを受けるための準備をするなど、介護の体制づくりも余裕をもってできます。長期的な介護計画を立てることができるというのは、大きなメリットといえるでしょう。 いきなり進行した状態から、知識もなくやみくもに介護しようとしても、本人にとって的外れなものとなり、心理的に追い詰めるなど逆効果になってしまう恐れがあります。