Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

《ブラジル》【寄稿】驚くべき経歴の持ち主=ブラジル人歌手エドアルド=小西良太郎 音楽評論家・音楽プロデューサー

配信

ニッケイ新聞

 テーブルの上を透明のアクリル板が横切っている。その向こう側にいる女性は、フェース・シールドにマスク、おまけに眼鏡までかけているから、誰なのか判然としない。  と言っても、僕は居酒屋に居るわけではない。僕もマスクをつけたままだし、向き合う女性の右側に居る青年もマスクが大きめである。  新型ウイルスの非常事態宣言は解除されたが、東京の感染者数は減る気配もない或る日の東京・神泉のUSENスタジオ。  実は僕がレギュラーでしゃべっている昭和のチャンネル「小西良太郎の歌謡曲だよ、人生は!」でのことで、完全武装!?の女性は歌手のチュウニ、隣りの青年はゲストの歌手エドアルドだ。  ふだんは鼻にかかる僕のモゴモゴ声が、マスク越しなのが気になって、芝居用の張り声を使った。  しかし、どうしても響きが少し派手めになるから、エドアルドの身の上話にはなじまないかな・・・と気になりながらの録音だ。  エドアルドはブラジル・サンパウロ出身。ブラジル人のジョセッファさんという女性が母親だが、生まれて2日後には日系二世のナツエさんの養子に出された。何とまあ数奇な生い立ち・・・と驚くが、しかし、 「生んでも育てられない女性と、子供に恵まれない女性の間で、事前に話し合いがすんでいて、こういうこと、あっちではよくある話なんです」と、本人は屈託がなく声も明るい。  結局彼はナツエさんの母になついたおばあちゃん子で、祖母は日本人だった。物心ついたころにしびれたのが日本の演歌で、これはナツエさんの兄の影響だと言う。  僕がエドアルドに初めて会ったのは19年前の平成13年。NAK(日本アマチュア歌謡連盟)の全国大会に、ブラジル代表としてやって来た彼が、細川たかしの「桜の花の散るごとく」を歌ってグランプリを受賞した。  この大会は100人前後の予選通過者ノドを競う、相当にレベルの高いイベントだが、エドアルドはすっきり率直な歌い方と、得難い声味が際立った。  審査委員長を務める僕が、総評でそれをほめたら、本人は日本でプロになりたいと言い出す。僕は「相撲部屋にでも入る気か!」と、ジョークを返したが、当時18才の彼は、150キロを超える巨体だった。  それから8年後、26歳のエドアルドは、驚くべきことに80キロ以上も減量して日本へやって来た。大の男1人分超を削っている。  「胃と腸を手術でちぢめてつなぎ直してですね、まあ、栄養失調になってですね、やせました」これまたあっけらかんと話す彼に、僕のアシスタント役のチュウニは目が点になる。ダイエットなんて発想は吹っ飛ぶ捨て身の覚悟で、歌謡界にさしたる当てもないままの来日。

【関連記事】