【痛みを伴う街のコンパクト化】居住を制限する「逆線引き」の功罪に私たちはどう向き合うべきか
そうした際に特に忘れられがちであるが重要なのが、集積の経済と混雑の不経済への影響であろう。これらは都市内の経済活動の活性化に関わる事柄であり、住民個人の損得にも大きく影響する。都市内でのこれらのバランスを考慮に入れた意思決定や、住民への説明の際にこうした要素をしっかり説明する必要があるだろう。 また、逆線引きが都市外への人口流出をもたらす場合のように、ある都市の政策が都市外にも影響を及ぼすことも多い。人口が都市外に流出すると、流出先の都市では人口増加を引き起こすことになる。流出先の都市においては、集積の経済、混雑の不経済、インフラや安全性維持の費用にも影響が及ぶ。 こうした他の都市への効果を自治体それぞれが網羅的に把握することは困難である。近隣の都市への影響を相互に理解してもらうための都市間・自治体間の協調が必要になる。これは国が音頭を取って行う必要があるであろう。
逆線引き後の都市の形状
さらに、逆線引きに際して、都市の形状にも注意を払う必要がある。米国のペンシルベニア大学のハラリ助教授はインドの都市圏について、都市の形状が都市住民の生活の質にどのように影響しうるかを分析した。その結果、同じ面積でも、形が綺麗で、コンパクト(ここでは都市内の二地点を複数回ランダムに選びんで二地点間の直線距離の平均を求め、それが短い都市ほどコンパクトであると判断している)な都市ほど人口成長率が高く、その形状が快適さを生み出していることを示した。また、快適さの源泉は都市内の様々な場所へのアクセスの良さから生じていることも明らかにした。 この結果は、逆線引きを行う上で重要な示唆をもたらしてくれる。なるべく都市の形状を綺麗でコンパクトにし、川や湖、山により形がいびつな場所では、交通網を整備してなるべく都市内のどこからどこへでも行きやすくなるように市街化区域を整備することが重要なのである。 一度宅地や商業地として利用していた場所を、利用できなくする逆線引きは、様々な痛みを伴う。それを敢えて実行するならば、生じうる影響はなるべく網羅的に把握し、可能な限り多くの人が納得するように進める必要がある。 都市内への影響はもちろん、他の都市への影響も吟味し、さらにはコンパクトさにも注意を払うなどして、快適で持続可能な都市を目指してほしい。
佐藤泰裕