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信頼した男は「ダマしの天才」。夫の死亡保険金等4000万円を奪い取られた私〈詐欺に遭って・後編〉

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婦人公論.jp

詐欺のニュースを見聞きして、「こんな怪しい手口になんでひっかかるんだろう?」と思っていても、わが身に降りかかると気づけないもの。相手を疑いもせず、金銭をダマし取られた人たちの体験を聞いた。後編は4000万円という巨額のお金を奪い取られた女性の体験談です(取材・文=田中有 イラスト=花くまゆうさく) 〈特殊詐欺・最新事情〉詐欺師につけこまれないコツ * * * * * * * ◆信頼した男は「ダマしの天才」  詐欺を働くには、緻密な台本と演出、相手を信じ込ませる演技力が必要だ。しかし、この世には、まるで人をダマすために生まれてきたような“才能”の持ち主がいる。 「あまりに嘘ばかりつかれるので、私のほうが間違っているのかしらと思えてきて。一時は精神的におかしくなりそうでした……」 キヨミさん(61歳)が、消え入りそうな声で話し出した。小柄な体に濃紺のスーツが少しだぶついている。 キヨミさん夫妻が経営する愛知県の会計事務所で、相田という男性を雇ったのは今から17年前のことだ。銀行勤務の経験があり、体も声も大きく自信に満ちた40代の相田は、瞬く間に夫の信用を得た。 その2年後、夫が心臓発作で急逝。多額の保険金が入ったが、キヨミさんは途方に暮れた。娘と息子は高校生、大学生でまだ学費もかかる。夫の後を継いで代表になったものの、事務所を畳もうかと迷っていた彼女を励ましたのが相田だった。 「私の誕生日にパーティーを開いて、『これからはみんなでキヨミさんを支えて頑張ろう!』と盛り上げてくれて。思わず涙がこぼれました」 体制を一新し、規模を縮小して事務所は再出発した。1年ほど経ったころだろうか。相田が地元の企業の名をあげ、「資金繰りがうまくいっていないらしい」と、「出資」を頼んできた。あと少しで軌道に乗る企業だから、と。相田の言葉に乗せられたキヨミさんは、何度か100万単位の現金を手渡した。

「いつまで経っても様子がわからないので、資金繰りがどうなったか確かめようと思いましたが、相田は『任せてくれ」と言うばかり。私も強く出られず、いつしか総額で4000万円も渡してしまったのです。夫の保険金はほぼなくなりました」 相田は開拓と称して大阪や東京に頻繁に出張していた。「大手企業の契約が取れそうだ」というのが常套句。「契約してくるから」とキヨミさんに知らせては、「先方の都合でダメになった」ということを繰り返し、経費だけがかさんでいく。 その後、知り合いから「相田が駅前の消費者金融に入っていった。金に困っているのではないか」と目撃情報が寄せられてキヨミさんが調べると、相田による横領が発覚した。出張費はただの飲み食いに消え、営業先への投資は自らの小遣い。何もかもが嘘だったのだ。キヨミさんが勇気を振り絞って、「出資金を全額返し、事務所を辞めてもらいたい」と通告すると、相田はあっさり返金の約束と退職に応じたという。 だが、キヨミさんの苦闘は、ここからが本番だった。相田は「いつか返します」と言ったかと思えば、風向きが悪くなると「知らねえ!」と凄む。キヨミさんが裁判所に調停を申し立て、毎月の返還額が決まっても、数回支払った程度でなしのつぶて。3年後の民事訴訟ではあらためて罪を認めたものの、申し訳程度に返済しては逃げる、の繰り返しだった。 子どもたちや親戚からは「何で4000万円も渡したんだ」となじられ、キヨミさんは追い詰められていく。一時は、毎月1キロずつ体重が落ちていったそうだ。さらに子宮筋腫を患い、円形脱毛症になった。 「これまでに戻ってきたのは100万円程度。請求書を送り続けているのですが、無視されています。弁護士費用のことを考えると、これ以上裁判を起こす気力はありません……」 相田は今も堂々と、キヨミさんと同じ県内で暮らしている。後でわかったことだが、相田は大小さまざまな詐欺行為を働いていた“ダマしの天才”だった。主な手口は「儲け話がある」ともちかけて出資金を預かり、持ち逃げするというものだ。 キヨミさんの友人であるケンジさんも被害に遭っていた。動物愛護団体の立ち上げ資金を巻き上げられたという。被害額を合計すると、優に億を超える。被害者の一人が探偵事務所に調査させると、ダマし取られた金を愛人へのプレゼントや旅行に費やしていたことが判明。被害者たちは警察に被害届を出したものの捜査はされず、相田は一度も逮捕されずに現在に至る。 「あのまま、私が会社を畳んでいれば、夫のお金を子どもに残すことができたのに……。息子は家に寄りつきませんが、就職した娘は家に戻ってきてくれて。最近は娘と笑い合える時間ができたことが救いです」

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