Aimerが多様な新EPを語る 「コンセプトがないことがコンセプト」の意味
音数を減らして空間の広がりを表現した初の試み
ーAimerさんにとって新たな試みだったんですね。「その時々で自分がベストだと思える作品」とのことでしたが、それぞれどんな思いが込められているのか教えていただけますか? EP1曲目「遥か」は、TBSドラマストリーム・映画『からかい上手の高木さん』のタイアップ曲なのですが、実はこの楽曲でも、新たな試みができました。原作コミックを読ませていただいたのですが、一言で言うととてもピュアな作品だと感じたんですね。主人公の学生2人の関係性や、やり取りがとてもかわいらしくて。そんな2人の関係性や作品の良さを楽曲で表現するにあたって考えたのは、2人の関係性の背景にあるもの。2人が住んでいる町は、バスに乗ったら海に行けたり、周りに山があったり、気軽に神社に寄れたりするところなのですが、2人のこの絶妙な距離感の関係性は、そういった環境が生んでいるものでもあるのかな、と思って。例えば、すごい高層ビルがたくさん建っていて周りに自然があまりなくて……みたいな場所だったら、この関係性は生まれていない気がしたんです。なので、その2人を作り上げている気持ちの良い景色を楽曲で表現したいと思って。もっと具体的に言うと、リスナーの頭に“海が見える街”がパッと浮かぶような感じを表現したかったんです。そこで試したのは、音数を減らして空間の広がりを表現するということ。この手法は「リスナーの近くで鳴っているような音楽」を作りたい場合によく使われるものですが、逆にそれで広がりを表現するというのはあまりないし、自分にとっても初めての試みだったので面白かったです。 ー確かに「遥か」はどんな環境で聴いていても、空間の広がりを感じる楽曲ですよね。では、「800」についてはいかがでしょうか? 「800」は映画『マッチング』のタイアップ曲ですが、これは「遥か」と打って変わって、混沌や不条理がテーマの楽曲です。『マッチング』のプロットを読ませていただいたのですが、「自分ではコントロールできないことに巻き込まれていく様子」が印象的だったので、それを歌詞やサウンドで表現できるようにこだわりました。日常でも「不条理を前にしたとき状況をコントロールできないから、自分の捉え方をコントロールするしかない」みたいな場面ってみんなあると思うんです。ただ、自分の捉え方をコントロールする場合、逆に自分の本心を見失ってしまうこともある。そういった経験は私にももちろんあるし、自分の心をコントロールするのは未だに修行中なので、そこから着想を得て歌詞を作りましたね。 ーAimerさんも“修行中”だとは、驚きました。ちなみに、タイアップ曲の場合作品にマッチさせることを意識されると思うのですが、Aimerさんはご自身との繋がりも意識されているのですか? そうですね。自分とのつながりが1ミリでもいいからないと、表現できないというか……。そうじゃないと自分に無理をしている感じがするので、少しでも繋がりを見つけるようにしています。 ーなるほど。「End of All」はオープンワールドRPGゲーム『原神』のオンラインイベント『原神新春会 2024』での歌唱曲ですが、こちらについてはいかがでしょうか? 「End of All」に関しても、お話をいただいて、まずは『原神』をプレイしてみたのですが、とても面白くて衝撃的で。映像が非常に美しいし、世界観がものすごく壮大で、衝撃を受けました。一度ハマったら、別のことをやる時間が無くなっちゃいそう(笑)。 ー(笑)。特にどんなところに魅力を感じたのでしょうか? ざっくり言うと『原神』は、「事件が起こってある人を救いに行く旅を始める」という内容なのですが、その先のストーリーも今いる世界すらもわからなくて、その未知な感じにすごく惹かれて。強いて言えば、私自身、今までいろんなカラーの曲をいろんなクリエイターの方の力を借りながら自分の歌声1つで旅してきたようなものなので、どこかシンパシーを感じたんだと思います。それに、『原神』という新たな作品に導かれて曲を作るというのもある種の旅のような感覚で、そこにも魅力を感じましたね。 ー「歌声で音楽の世界を旅する」、とても素敵です。では4曲目の「Ref:rain -3 nuits ver.-」についてはいかがでしょうか? この曲は、元々2018年にリリースした「Ref:rain」をリアレンジしたバージョンです。実は自分でも意外だったのですが、日本以外のアジア圏で「Ref:rain」を好んでくれているリスナーがたくさんいらっしゃるらしいんです。「Ref:rain」は素直なバラードなのですが、もっとキャッチーな楽曲やアニメのオープニング曲などが人気なのかなと思っていたので、驚いたと同時にすごくうれしくて。私自身とても気に入っている曲なので、今回リアレンジバージョンを制作しました。リリースが6月で日本はちょうど梅雨の時期なので、時期的にもぴったりな楽曲に仕上がっていると思います。