2世レーサーならではの苦悩、引退した父が見せた涙…「遠回りだらけの競輪人生」はデビュー9年目でようやく軌道に/鈴木彩夏インタビュー後編
日々熱き戦いを繰り広げているガールズケイリンの選手たち。今回は引退した元競輪選手・康雄さんを父に持つ“2世レーサー”鈴木彩夏選手(29歳・東京=110期)。競輪学校での落第、デビュー直前に大ケガを負うなどデビューまで一筋縄ではいかなかった。後編では、デビュー後の不振や落車負傷を乗り越え、デビュー9年目にして初優勝に期待がかかっている鈴木の競輪人生を振り返ってもらった。
2世レーサーの苦悩 志願し荒井崇博らの元へ出稽古に
デビュー直前、練習中の落車で負った肩のケガの痛みに悩まされていた鈴木彩夏。手術を決断し、長期休養に入り翌年以降に備えた。 復帰後、デビュー2年目の5月青森で初決勝進出を決めると続く2戦も優出。少しずつ練習の成果を発揮し、レースの流れに乗れるようになった。 この時期は同期の野口のぞみ(引退)を頼り、長崎にある諫早干拓練習グループへ出稽古に行っていた。 「松戸にいるとどうしても甘えが出てしまうので…。松戸の選手たちも、父や私に気をつかう部分はあったと思いますし。このままでは強くなれないと思ったので、野口のぞみさんにお願いして諫早の街道練習グループに混ぜてもらえることになりました」 干拓の練習グループは練習内容の濃さで有名だ。S級トップの荒井崇博、井上昌己らを筆頭に脚力自慢の男子選手に練習でもまれ、徐々に力を付けていった。 「最初は付いていくのでいっぱいで苦しかったけど、中身の濃い練習ができました。長崎では誰も父のことを知らないので、みんな遠慮なくアドバイスをくれました」 特に荒井には“しごかれた”と振り返る。それも2世レーサーの鈴木にとっては新鮮な経験になったそうだ。 「荒井さんに『点数取りたいから教えてください』ってお願いしていろいろ練習を見てもらいました。荒井さんはダメなところはハッキリいってくれるから、自分はうれしかった」
厳しい練習のあとには、食事に連れて行ってもらうことも多かったそうだ。 「練習で褒められたことなんてなかったのに、お酒の席で荒井さんがポロッと『お前なら点数取れる、大丈夫』と言ってくれて…。すごく胸に響きましたし、何から何までお世話になって本当に感謝しています。抜群の環境で練習をさせてもらったおかげで競走得点を上げることができた。干拓の練習グループのみなさんには感謝しかないです」 自転車経験未経験で飛び込んだ競輪界で、鈴木彩夏の基礎を作ったのは長崎干拓グループの濃い街道練習だったのは間違いない。そしてデビュー3年目の1月、名古屋でようやく初勝利を挙げた。 「初勝利はホッとしました。同期はどんどん1着を取っているし、焦りもあったので。長崎の干拓でお世話になっていた米嶋賢二さんも開催にいて、すごく喜んでくれました」