SIMロックは「原則禁止」 キャリアメールは「転出元管理」で持ち運び――総務省がMNP活性化に向けた「論点案」を提示
総務省は1月27日、MNP(携帯電話番号ポータビリティー)の活性化に向けた検討を行う有識者会議「スイッチング円滑化タスクフォース」の第4回会合を開催した。今回は、eSIMのセキュリティーに関するヒアリングが行われた他、同省による論点の整理案の提示が行われた。 【画像】MNPのワンストップ化の方式 この記事では、同省が提示した論点の整理案を中心に解説していく。なお、特記のない限り、MNO(自ら設備を持つ携帯電話事業者)とMVNO(MNOから通信設備を借りる携帯電話事業者)は、まとめて「キャリア」と呼ぶ。
MNP手続き:転出先で完結する「ワンストップ方式」を導入へ
現在のMNP制度は、転出元と転出先両方のキャリアで手続きが必要な「ツーストップ方式」となっている。しかし、転出元キャリアにおける「引き留め」によって、MNPの活性化が妨げられているという指摘がある。 そこで総務省は4月1日、「携帯電話・PHSの番号ポータビリティの実施に関するガイドライン」を改定し、転出元キャリアでの手続き時における引き留めを原則として禁止する。 MNPのさらなる活性化を目指して、同省では転出先キャリアでの手続きだけでMNP手続きをを完了できる「ワンストップ方式」の導入を目指している。総務省がキャリアと行った「事業者間協議」において、MNOからは以下の2方式によるワンストップ化が提案されたという。 方法1:「スイッチング支援システム」の構築 全てのキャリアで共有する「スイッチング支援システム」を構築した上で、閉域ネットワークを介して同システムと各キャリアの顧客管理システムを接続し、契約情報のやりとりを行う。小売電力における同種のシステムを参考にしたという。 このシステムには、MVNOも直接接続することになる。転出元キャリアは「MNP予約番号」を便宜上発行するが、手続きでは利用されない。転出元キャリアにおける解約時の「重要事項説明」は、システムを介して転出先キャリアが代行して行うことを想定している。 ただし、この方式には以下のような課題がある。 ・中小規模のMVNOにとってはシステムに対する費用負担が重くのしかかる ・開発や維持にかかる費用をどう案分するのか検討しなければならない ・システムの運営主体をどうするのか検討しなければならない ・転出先キャリアが解約時重要事項説明を代行することについて、電気通信事業法上の問題を整理しなければならない 楽天モバイルやMVNOは、ワンストップ化の早期実現を希望しているという。しかし、この方法だと検討すべき事項が多岐に渡り、時間も費用も掛かるため、早期のワンストップ化は難しい。 方法2:APIによる既存システムの自動化 現行のMNPシステムに、転出先キャリアからの要求に基づき予約番号を自動発行するAPI(アプリケーションインタフェース)を追加する。この方法によるMNP手続きは、以下の手順で行われる想定となっている。 1. ユーザーが転出先キャリアにMNPによる転入を申し込む 2. 転出先キャリアが、転出元キャリアにMNP予約番号を要求 3. 転出元キャリアは、転出先キャリアにMNP予約番号を通知 4. MNP予約番号を使って、転出先キャリアが転出元キャリアに移転の可否を確認 5. 転出元キャリアが承認すると転出が成立 従来はユーザーが行っていた手続きを、APIで完全自動化した格好だ。方法1とは異なり、転出元キャリアの解約時重要事項説明を取得する仕組みはない。そのため、手続き開始前にユーザーが自ら解約時重要事項を読むことを前提としている。 この方法はMNOもMVNOも準備に掛かる期間と費用を極小化できることがメリットだ。従来のツーストップ方式も併存しやすい。MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会(TELESA)のMVNO委員会も「現時点ではこの方法が現実的である」という旨の意見を寄せているという。 ただし、以下のような課題もある。 ・ユーザーが事前に解約時重要事項説明を読むことと、転出先キャリアに予約番号発行(≒解約)手続きを依頼することについて、電気通信事業法上の問題を整理しなければならない ・転出元がMVNOの場合、回線提供元のMNOが契約情報や転出可否情報を照会することになるため、「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」上の整理が必要となる ・MNOとのAPI連携を利用していないMVNOは、運用に課題が生じうる スイッチング支援システムよりは低コストかつ迅速に導入できるものの、法律やガイドライン上の問題点の洗い出しを行い、中小MVNOにおける運用上の課題を解決しなければならない。 課題は「解約」? タスクフォースに参加する構成員(有識者)からは、ワンストップ化に伴う「解約トラブル」を懸念する声が出た。 スイッチング支援システム案では、転出先キャリアが転出元キャリアにおける解約時の重要事項説明を代行する想定となっている。そのため、“誰が”説明責任を負うのか整理が必要となる。APIによる既存システムの自動化案では、転出元キャリアにおける解約時の重要事項説明をユーザーが“自ら”読むことを前提としている。故にユーザーがしっかり“読まなかった”場合のトラブルをどう考えるのかという課題もある。 現時点において総務省は、引き留めの原則禁止の実施状況を確認しつつ、ワンストップ化に関する検討を進める方針だ。コストが掛からず短期間(1年程度)で準備が整うAPIによる既存システムの自動化が有力な方法となっているが、いずれの方法を採用するにしても、課題の整理は一層進める必要がある。