[立川談笑さん]甲状腺がんの診断に「落語をできなくなるかも」…つらかった脂肪ゼロ、ヨウ素制限の食生活
ウェルネスとーく
落語家の立川談笑さんは、2021年5月、甲状腺がんの手術を受けました。成り行きによっては落語ができなくなる恐れがあり、勇気のいる決断でした。(聞き手・斎藤雄介) 【写真3枚】高座の立川談笑師匠
がんの診断に動揺、スマホ忘れる
――どうやって甲状腺がんとわかったのですか。 2020年11月に区民健診でわかりました。近所のかかりつけのクリニックで胸部レントゲンを撮ったところ、先生から「特に疾病というわけじゃないんだけれども、肺と肺との間の胸郭が少し広がっている。何か思い当たることはありますか」と。「そういえば、小学生ぐらいのときに甲状腺に腫瘍があるとわかりました。良性なので、そのまま放っといたらいいでしょうと言われました」と答えたら、「年も年ですしね。ひょっとしたらということもあるので、精密検査してみたらどうですか」という話になりました。 紹介されたのは、小学生のときに検査してもらった病院でした。国内有数の専門病院です。 3回ぐらい検査に通って、細胞を直接取ってみないとわからないということになって、細胞診の結果、「悪性です」。 てっきり良性だと信じてきたので、まさか悪性と言われるとは思っていませんでした。まあ、動揺したんでしょうね。検査結果を聞いて、手術するかしないか、なんて話をして、診察室を出た。そうしたら、看護師さんに「忘れてますよ」って言われて。診察室に私、スマホを置き忘れていたんです。「あれ、いつスマホを出したんだろう」。そのぐらいに動揺していたんですよ。
「落語ができなくなるかもしれない」
――子供の頃から腫瘍があったそうですが、触ってわかるぐらいのものだったんですか。 そうです。ゴリゴリした、クルミをちょっとやわらかくしたようなものが、ずっと首のあたりにあったんですよ。ずっとそれが良性だと思ってきました。 悪性と判明して迷ったのが、手術するかどうか。正確には、甲状腺乳頭がんというんです(甲状腺がんの種類。がんの形が乳頭に似ていることから、この名前がつく)。進行の遅いがんで、20年、30年と時間をかけて進行していく。だから、切らずにそのままにしておくケースもかなりあるらしいんですよ。 ただ、私も50代。30年後、80歳になってから、やっぱり切りましょうとなったときに、体力的に難しいですよね。 どうせだったら早いうちに切った方がいいんじゃないですか、ということで切る方向になりました。 手術の予約が結構、先々まで埋まっていて、5か月後に手術となりました。 私の場合、深刻な問題がありました。甲状腺の両脇に反回神経というのが通っているわけですが、腫瘍の位置がずいぶん反回神経に近かったんですね。ひょっとすると、反回神経にがんがくっついちゃってるかもしれない。 声帯を調整している反回神経というのは非常にデリケートで、手術中にちょっと触ったりするだけで、声がれがしたりだとか後遺症が残る場合がある。 最悪の場合、がんが食い込んでいたら反回神経ごと切除しなくちゃいけないかもしれない。そうなったら、声は出せなくなると。 大いに悩みましたね。そこまで、がんが大きいというのは、やはり放置もしておけないだろう。といって、声が出なければ仕事ができなくなりますからね。 そうなったら、落語以外の仕事に転職するのか。その場合、弟子はどうするだろう、どこに預けるんだろうっていうのも考えながら、最終的に私がたどり着いた結論は、「開けてみて、神経ごと切らなくちゃいけないという場合は、手をつけずに元に戻す」。 元に戻してもらったら、あと5年なのか7年なのか、声が出る状態で落語をしたい。その後どうなるかわからないけど。 お医者さんに本当にそうお願いしてみました。先生は、「上手にやります、心配しなくて大丈夫ですよ」と言ってくれました。 入院前の高座では、これが最後になるかもしれない、この一席ともお別れという気持ちになりましたね。演目はなんだったかな。「金明竹(きんめいちく)」か「時そば」か。 ――腫瘍のせいで日常生活で困ったことはなかったのですか。 ないですね。だから悩みますよね。手術をしたばっかりに声が出なくなったら、どうするか? 小説家? 小説家じゃないよな。本当にそこは悩みに悩んだ。 いざ手術が近づいて入院しますね。私が入った病室は、男性だけ5人ぐらいの部屋で他の患者さんも同じ手術をするんです。でも、先生は私の時だけ念入りに後遺症の危険性を説明する。ほかの方への説明もカーテン越しに聞こえてくるんですが、そこまで詳しく説明しない。 私の場合はやはり深刻だったんですね。反回神経とがんと、かなり近かったからだと思います。反回神経にくっつくほど、がんが大きくなるっていうのは、そうそうないらしいので、だいぶ進行していたのでしょう。80歳まで待つなんて、のんきなこと言ってる場合じゃなかったと思いましたね。