ときどきがんばる日があればいい「70歳を越えたらやめたい100のこと」
文/印南敦史 いろいろなことが起こる日常のなかで、がんばる自分とがんばれない自分との間を何度となく行ったり来たり――。ずっとそんなことを繰り返してきて、ふと気づいたら70歳だったと記しているのは『70歳を越えたらやめたい100のこと』(中山庸子 著、アスコム)の著者である。 ひとつの節目を迎えた結果、「これからは、もうちょっと“自分ファースト”でもいいのかな」と感じているのだそうだ。 <したくないことや嫌いなもの、うんざりするすべてをみんなやめて、自分にとって「これやってみたい」という「幸せな時間」や「身の回り好きなものだけ」という「幸せな空間」を作り出す。 そうなんです。 明るくやめれば、新しい幸せが作れるんです。(本書「はじめに 70歳からは、新しい幸せのために明るくやめよう」より)> いかにもポジティブな考え方だが、そこには理由がある。父母の介護、実家の売却問題、小腸潰瘍狭窄のための入院など、さまざまな壁を乗り越えた末に、そうした結論にたどり着いたというのだ。 そして、「そうしたことも味わった70歳を機に、これからは身軽になりたい」という思いから、本書においてはさまざまな「これってやめていいんじゃない」をピックアップしているのである。 たとえば印象的なのは、70年の間にいつの間にかできあがってしまった“考え方のクセ”のトップに「つい人とくらべてしまう」ことを挙げている点だ。 スポーツやゲームのように、シンプルに勝ち負けがつくものであれば、比較はなんらかの励みにもなるだろう。しかし、それが“マウントの取り合い”のようなことになってしまうのだとしたら話は別だ。 著者自身も、「あの人にだけは負けたくない」「これ、うらやましがられるんじゃない?」というような価値観から抜け出せない時期があったようだ。 次のように提案するのは、そうした過去があったからなのだろう。 <まずは、比較してしまう考え方のクセがついていることを認識する。 折々に「あっ、また比べてるよ」と、気づく。 比べてすごく楽しいのなら、それでもいいけれど、そうじゃなかったら「今日は比べるのやめる」をしてみましょう。(本書89ページより)> こうしたスタンスを“心の断捨離”と表現している。たしかに、そうすることで清々しい気分になれるかもしれない。 また著者は、田辺聖子の本のタイトルから見つけた『人生は、だましだまし』というタイトルを、「“ヤング”には逆立ちしても至ることのできない境地」だと述べている。 <「以前はできたんだから」と、ついがんばりすぎて、思っていた通りにできず落ちこんだり、ドッと疲れてへこむより「だましだまし」やっていけば、なんとかなる場合も多いんじゃないでしょうか。 晴れたからといって、ずっと活動的でなくてもオッケー。「日向ぼっこ」がサマになるのは、シニアの特権です。 雨の日も、がんばってもいいし、がんばらなくてもいい。 「いつもがんばらなくては!」と肩にチカラを入れるのをやめれば、無理なく暮らせると思います。(本書91ページより)> なるほど振り返ってみれば、誰しも若いころは、ついがんばってしまいがちだったのではないだろうか。人と比較して「自分はまだまだがんばりが足りない」と自分を追い込んでしまったり、あるいは、がんばることが美徳だとすら考えていた可能性もあるだろう。 だが、相応に歳を重ねたいま、そこまでがんばる必要はないのだ。なかなか気づきにくいことでもあるだろうが、そろそろこのあたりで視点を変えてみるべきなのかもしれない。 ちなみに著者は、「ときどきがんばる日があればいい」くらいのペースでいきたいと考えているそうだ。いまの自分にとってはそのくらいのほうが、本当にしたいことに「全力」を注げるはずだから、というのがその理由だ。 <全力を出したあとは、しばらく縁側の猫みたいにだましの雰囲気で過ごして、エネルギーがたまってくるのを待ちましょう。 「だましだましの晴耕雨読」が、いまの私のモットーです。(本書91ページより)> 若いころから「晴耕雨読」という四字熟語が好きだったと著者はいう。年齢を重ねてまさに「それ」をするにふさわしい境遇になった気がしていたようだが、「耕」には腰痛が、「読」には老眼がついてまわり、なかなか理想どおりにはいかなかったりもするらしい。 だが、それを「おもしろい」と感じることのできる余裕は、若いころには理解できなかったことだろう。だからこそ、「だましだましの晴耕雨読」がちょうどいいのだ。 『70歳を越えたらやめたい100のこと』 中山庸子 著 アスコム 1540円 文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。
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