2024年ターナー賞はジャスリーン・カウル。シーク教徒コミュニティを称える遊び心に溢れた作品が評価
2024年のターナー賞がジャスリーン・カウルに決定した。スコットランド・グラスゴーのシーク教徒コミュニティで育った38歳のカウルは、今年のファイナリストの中で最年少。フォード・エスコート・カブリオレMK3の屋根に巨大なレースの敷物を乗せた「ソシオモビル」など、グラスゴーでの幼少期を反映した作品が「意表を突き、遊び心のある素材の組み合わせ」として審査員から評価された。 【写真】イギリスで活動した女性アーティスト 毎年開催されるターナー賞は、イギリスのみならず世界的にも注目される現代アートの賞で、受賞者には2万5000ポンド(約475万円)、最終選考に残ったアーティストには1万ポンド(約190万円)が授与される。また、受賞者およびファイナリストの作品は、隔年で開催されるテート・ブリテン(ロンドン)の展覧会で展示が行われる(受賞展はその間に国内を巡回)。カウル以外の今年のファイナリストは、クローデット・ジョンソン、デレーヌ・ル・バス、ピオ・アバドで、9月25日に開幕した2024年の展覧会は2025年2月16日まで開催中。 カウルの受賞理由となったのは、2023年にグラスゴーのトラムウェイで開催された個展「Alter Altar」。テート・ブリテンの受賞展で再現されているこのインスタレーションでは、フォードのヴィンテージカーのスピーカーからポップやヒップホップ、宗教歌謡カッワーリーが鳴り響き、礼拝用の鐘やスコットランドの代表的な炭酸飲料アイアンブルー(Irn-Bru)など、日々の暮らしで目にするものが配されている。 自らの出身地であるグラスゴーのシーク教徒コミュニティを称えたこの作品は、子牛などをホルマリン浸けにした作品で1995年にターナー賞を受賞したダミアン・ハーストや、汚れたベッドのインスタレーション《マイ・ベッド》で1999年に受賞したトレーシー・エミンなど、ヤング・ブリティッシュ・アーティストが活躍し、ターナー賞が最も盛り上がった時代を思わせると評されている。 審査員を務めたのは、テート・ブリテン館長のアレックス・フーカーソン、ワイシング・アーツ・センター館長のロージー・クーパー、キュレーターで美術史家のリディア・イー、ジャーナリスト、キャスター、キュレーターのエコウ・エシュン、ジャパン・ハウス・ロンドンのサム・ソーン館長兼CEO。ファーカーソン館長は、カウルが「日常的なもの、その土地に特有のものや使い捨てのものなど、さまざまな素材を生き生きとした空間を構成するものへと変身させた」ことに感銘を受けたとし、こう付け加えた。 「(カウルの作品は)特に植民地主義の遺産という歴史的・地理的座標を背景とした、人々の記憶や文化、政治に関する大きな問いかけへとつながります」 12月3日夜にテート・ブリテンで行われた授賞式では、イギリス人俳優のジェームズ・ノートンがプレゼンターとして登場し、カウルに賞金を授与。カウルは受賞後のスピーチで、子供の頃は文化的なものに触れる機会がなかったため、ターナー賞のことを知らなかったと明かし、こう語った。 「今日は地元のシーク教徒のコミュニティや、そこで一緒に育った知人たちからたくさんのメッセージをもらいました。ターナー賞のように大きな注目を集めるものは、異なるルーツを持つ多くの人やグループにとって、とても意味があります。私はそうした人々全てを代表してここに立っているのです」(翻訳:石井佳子)
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