経済学を学ぶ意義は論理的思考の訓練。経済学の本当のメリット2つを元大学教授が考察
経済学は未完の学問なので、現在の経済学で経済を理解するのは無理がありますが、経済学を学ぶと論理的に考える訓練になるので、学ぶ価値はあるでしょう(経済評論家、元大学教授 塚崎公義)。 この記事の写真を見る
経済学は未完の学問
経済学は、様々な極端な仮定を置いて、何が起きるかを考えよう、という学問です。たとえば人間はすべての情報を知っていて必ず合理的に行動し、取引コストがかからないとすれば何が起きるのか、といった具合です。 有名なのは、一物一価の法則でしょう。世界中の店のリンゴやミカンの値段は同じである、というものです。他の店より高い値段をつけた店は客が全く来ないので値下げをせざるを得ないから、という事のようです。これだけ見ても、経済学が未完で、現実を説明できるレベルに達していない事がよくわかりますね。 ひとたび「人間は衝動買いをする事がある」という条件を加えようとすると、どういう場合にどのような衝動買いをするのか、といった事を細かく定義しなければならず、とても複雑になってしまうので、現在の経済学では扱えていないのです。 高校でニュートンの法則を習いました。「引力と空気抵抗がなければ、投げたボールは真っ直ぐ飛んでいく」というものです。もちろん、これは初級物理学であって、実際には上級物理学を使って宇宙ロケットを飛ばしたりしているわけですね。 人間の世界では「完全な情報を得ることは難しい」「取引コストが存在する」「人間はまちがえる」「人間の心理が経済活動に影響する」といった事が経済現象を複雑にしているわけですが、物理の世界にはそういう事がありませんから、物理学は簡単に上級レベルまで進化したわけです。物理学者が羨ましいです(笑)。 経済学は、今はニュートンより少し進んだ程度のレベルでしょうが、あと100年もすれば、心理学との共同研究などが進んで、経済が理解できる学問になっていると期待しています。
経済学を学ぶことは論理的に考える訓練になる
筆者は大学で経済学を教えていましたし、経済学の教科書も書いています。それは、経済学を学ぶことが論理的に考える訓練になると考えているからです。 経済学は精緻な理論で組み立てられています。そのために無理な前提を置いているのですから、当然と言えば当然ですが。つまり、経済学を理解するためには、物事を論理的に考える必要があるのです。その点は、数学の公式と似ていると言えるでしょう。 大学で教えている他の教科も、経済学ほどではありませんが、論理的に考える訓練になりますから、他の学部を卒業した人も、大学で学んだ経験は決して無駄にはなっていないと思います。 もっとも、経済学部を卒業していても真面目に勉強していなかった人は、この限りではありません。それと、経済学は難解だから理解できなかったが、単位をとるために教科書を暗記した、という人も、この限りではありません。 問題は、大学の教員が経済学を教える時に、論理的な思考訓練をやっているのか結論だけを伝えているのか、という事です。あるいは、教員は思考訓練をやっているつもりでも、学生のレベルと比べて難解すぎて、結局学生は結論だけを丸暗記して期末試験に臨んでいる、という場合もありそうですが。