新垣結衣と早瀬憩が体現する“理解を前提にしない”生き方に救われる ――「違国日記」
累計発行部数180万部を突破したヤマシタトモコの人気コミックを、瀬田なつき監督が新垣結衣と早瀬憩を主演に迎えて映画化した「違国日記」のBlu-rayとDVDが、10月2日(水)に発売された。
「愛せるかどうかはわからない。でもわたしは、決してあなたを踏みにじらない」
ある日、目の前で両親を交通事故で亡くしてしまった15歳の朝(早瀬憩)。あまりに突然すぎて涙さえ流れず、呆然としたまま葬式に参列する朝に、「可哀そうに……」「あの子、たらい回しにされるんじゃないかしら?」と、親戚縁者たちの心ない言葉が突き刺さる。 そんな時、「あなたを愛せるかどうかはわからない。でもわたしは、決してあなたを踏みにじらない。たらい回しは無しだ!」と、朝からまっすぐ目をそらさず、言い放った女性がいた。朝の亡くなった母親・実里(中村優子)の妹にあたる叔母・槙生(新垣結衣)だ。 実は、槙生は昔から実里と折り合いが悪く、姉妹でありながら近年は全く交流がなかった。だが、誰も引き取ろうとしない朝と同居することを、その場で決めたのだ。こうして、ほぼ初対面のふたりにとって“エポック”となる、ぎこちない共同生活がはじまった。 人見知りなのに、咄嗟の判断で多感な年ごろの姪を引き取ってしまった35歳の小説家と、厳格だった母とはタイプの異なる風変わりな大人である叔母に、興味津々な15歳の少女。年齢も性格も生きてきた環境も全く違うふたりが、互いを理解できない寂しさを抱えながらも、まっすぐに向き合い日々を重ねるうちに、徐々に歩み寄り、家族とも友人とも異なる「槙生と朝でしかない」かけがえのない関係性を、ゆっくりと築いていく――。
新垣結衣×新星・早瀬憩×瀬田なつきが「原作コミックという違う国」を実写化
主人公・槙生を演じるのは、近作「正欲」(23)でこれまでのイメージを鮮やかに覆した、新垣結衣。ぶっきらぼうで片付けが大の苦手だが、人知れず心の中に激情を隠し持ち、不器用なまでに誠実に、実直に生きる槙生をチャーミングに、時に凛々しく演じる。 朝を演じるのは、オーディションで抜擢された新星・早瀬憩。“大人らしからぬ大人たち”に戸惑いながらも、持ち前の天真爛漫さで周囲の懐にスルッと入り込める一方で、悩み多き思春期で日々揺れ動く朝の繊細な心情を、撮影当時15歳の早瀬が瑞々しく体現する。 さらに、ふたりの暮らしを見守る槙生の頼もしい親友・醍醐役に夏帆。別れてもなお槙生を優しく支え続ける元恋人・笠町役に瀬戸康史。槙生の母・京子役に銀粉蝶が扮しているほか、槙生の姉で朝の母である実里役を中村優子、槙生と朝の生活を見届ける弁護士・塔野役を瀬田組常連の染谷将太が務め、早瀬らフレッシュな面々の脇をガッチリと固める。 監督と脚本を務めるのは、「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」(11)で商業映画デビューを果たし、「PARKS パークス」(17)、「ジオラマボーイ・パノラマガール」(20)のほか、近年はドラマも多く手掛けている瀬田なつき。脚本執筆時には原作コミックが完結していなかったこともあり、実写化する上では、原作者から委ねられた部分も大きかったそう。 インタビューによれば、瀬田は、“誰か”の視点にはならないように、原作コミックには頻出するキャラクターたちのモノローグを極力廃し、「槙生と朝の関係を軸に、ふたりをつなぐ存在の実里が“不在”の日常の暮らしを現在進行形でスケッチするように描くことで、そこにある想いや人間関係がいろんな形で浮かび上がっていくことを目指した」という。 そうして紡がれた脚本をベースに、それをセリフや動きで体現する俳優陣はもちろんのこと、撮影、照明、美術、衣裳、音楽など、本作に携わるあらゆる部署のスタッフたちがそれぞれの視点で原作の世界観を汲み取り、監督とコミュニケーションを交わしながら再構築した結果、必ずしもすべてが忠実というわけではないにも関わらず、見事な実写映画として立ち上がった。ある意味では、「違う国のことを知る」こととも重なるのではないか。 特筆すべきは、劇中、多くの登場人物たちが入れ替わり立ち替わり訪れる、槙生と朝がふたりで暮らすマンションの絶妙な間取りと、槙生の“追い詰められ度”やふたりの距離感とも連動する、室内の乱雑さ。中でもリビングと槙生の仕事部屋を間仕切る引き戸の使い方が非常に効果的で、締めたくてもなかなか上手く締められない“ユルさ”が、笑いを誘う。