三谷幸喜インタビュー「想像して、彼らの思いを見つけていく」『鎌倉殿の13人』執筆を語る
現在放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜 午後8時~8時45分 ほか)で、脚本を担当する三谷幸喜にインタビュー。 大河ドラマ第61作は、鎌倉幕府の二代執権・北条義時が主人公の『鎌倉殿の13人』。平安時代末期から鎌倉時代初期を舞台に、野心とは無縁だった義時がいかにして武士の頂点まで上り詰めていくのかを描く。 「彼以上にこの役を演じきれる人はいなかったでしょう」──大泉洋演じる源頼朝に誰より望みを掛け、今そう振り返るのはほかでもない、脚本を執筆する三谷幸喜だ。長きに渡り義時(小栗旬)と苦楽を共にした頼朝の最期は丹念に描かれ、放送は2週に及んだ。 物語はついに折り返し地点に到達し、いよいよ鎌倉殿の後継者・頼家を支える御家人“13人”が始動する。三谷が見つめる『鎌倉殿の13人』とは。第26回(7月3日放送)までの軌跡を振り返っていく。
<三谷幸喜 インタビュー>
◆源頼朝(大泉洋)が第25回のラストで落馬し、第26回で息を引き取りました。死が迫りつつある頼朝をどう描こうと考えていたのでしょうか。 頼朝の死に関しては諸説ありますが、僕としてはこれだけ長い時間寄り添ってきた人物ですし、彼なりのつらさや孤独も十分感じてここまできました。だから最期はちゃんと死なせてあげたかった。暗殺説もあるんですが、“誰かに殺される”となるとそこには殺す側のドラマも生まれてきてしまいます。そうではなく、あくまでも頼朝側のドラマとして完結させてあげたいという思いがあったんです。それで最期は、静かに死なせてあげたいという結論に至りました。一体、彼の人生とは何だったんだろう。彼ほど寂しい男はいなかったんじゃないか。その答えが浮かび上がってくるよう心がけたつもりです。そんな思いを大泉さんも汲み取って一生懸命演じてくれましたし、第25回の巴御前(秋元才加)とのやり取りでは「自然と涙が出てきた」と聞きました。あんなにも頼朝が泣くとは想像していませんでしたが、あれはこれまで演じてきた積み重ねの中で出てきたものなんじゃないかなと感じました。 ◆政子とのやりとりで締めくくられた頼朝の人生ですが、そこにはどんなこだわりがあったのでしょう。 2人が最初に出会ったとき、政子が持ってきた料理に頼朝が「これは、何ですか」と聞いたんですよね。このせりふを頼朝が死ぬときに使おうとは思っていませんでしたが、頼朝が意識を失ってそのまま死んでいくのは嫌だったので、一回蘇らせたいなと。そこで、目が覚めた時に何を言うだろうかと考えたときに、あのシーンを思い出したんです。もう一回言わせてみようとなったんですが、実際に季節考証的には(出会った時のシーンと)同じ料理は出せないそうなんです。でも物語の面白さを優先して、あのようなシーンにしました。 ◆本作の頼朝に込めた思いを教えてください。 あれほどドラマチックな人生を歩んでいる人はいないと思いますし、決して聖人君子でもない、かなりマイナス面を抱えた歴史上の人物なので、誰が(脚本を)書いても魅力的になると思います。それぐらい面白い人物だなと昔から思っていました。その源頼朝という人物を、メインの登場人物として描けるのは脚本家冥利に尽きますね。もちろん今回は、大泉洋という俳優が演じることになったことで結果的にこういう頼朝像になった、というのが全てだと思います。僕が望んでいる頼朝像をきちんと、そして、もしかしたらそれ以上に演じてくれるだろうという信頼がありますし、出来上がった作品を見る度に「彼は分かってくれているな」といつも感じていました。こんなにも人間のリアルな部分を孤独な部分も含めて演じることができる俳優さんがほかにいるだろうかと。彼以上にこの役を演じきれる人はいなかったでしょう。 ◆大泉さんとはどんなコミュニケーションを取られていましたか。 放送が始まってから、ほとんど連絡はとりあっていないんです。でも、頼朝を演じることで相当日本中に嫌われていると彼が思っているらしいというのを聞いたので、「日本中に嫌われても僕は君のことが好きだよ」と伝えたら「お前のせいだ」と言われました(笑)。