ロシアは「AI大国」を目指すが電力不足がそれを阻む
ロシアにおけるAIの話は大きな発展を夢見るすべての国にとって教訓になる
デジタル化とAIを促進するために、ロシアは今年、首都モスクワで銀行取引業務や都市開発、税関、貿易などあらゆる連携分野を網羅する一連のイベントを開催し、「反植民地的」AIとデジタル協力を推進した。この取り組みがうまくいけば、欧米諸国を迂回するプロトコルを確立し、独自のインターネットを構築することも可能になる。だが差し当たって得られた結果は、少なくともロシアでは有望なものではなかった。 ロシアは何年も前から国を挙げてAIに注力してきた。ウラジーミル・プーチン大統領は、ウクライナでのロシア軍の芳しくない戦いぶりと中東で展開されているロシアの防空テクノロジーが万全でないことに憤慨している。そして、西側諸国により対等な立場で対抗できる可能性のある手段としてAIに目を向けている。 ロシアは自国のAI推進を誇示するために、BRICSのイベントでエンターテインメントのような分野での優位性を公言した。11月13、14日に首都モスクワで開催された「文化・メディア・デジタル・フォーラム」には米映画監督オリバー・ストーンや著名パーソナリティらが参加し、モスクワはAIを駆使して米ハリウッドに対抗する、エンタメ業界におけるBRICSのハブだとアピールした。 モスクワのセルゲイ・ソビャーニン市長は、AIのおかげでモスクワのクリエイティブ産業が過去2年で35%成長したと明らかにした。 公式統計によると、ロシア当局はクリエイティブ産業に可能な限り最先端のAIを導入するよう強く奨励している。同産業は現在、ロシアの国内総生産(GDP)の約3.5%、モスクワの経済のほぼ10%を占めている。 プーチンにとって不運なことに、AIの野望は自国の信頼性の低い送電網という壁にぶつかっている。送電網を運営する企業によると、AI関連の電力使用量は今年、約2.5GWとなることが見込まれている。この数字は今後数年間で10GWに達する可能性がある。 だが、ロシアはそうした需要に対応できるほどに発電能力と送電網インフラを増強できそうにない。過去10年間のロシアの発電量の増加率は年2~3GW程度だ。ロシアにとってウクライナでの戦争が負担になっていることは言うまでもなく、そのような状況で発電量を十分増やすのは容易ではなさそうだ。 要するに、ロシアにおけるAIの話は大きな発展を夢見るすべての国にとって教訓になる。十分なインフラとエネルギーを賄う基本的なリソースがなければ、発展は夢のままで終わる可能性が高い。各国が暗号資産やAIに一層依存するようになり、電力需要が世界中で急激に増えていることを考えると、先が見えない中で何かを成し遂げるために国の指導者らはエネルギー安全保障を優先させる必要がある。
Daniel Markind