ディーン元気を覚えていますか? 甦ったやり投げ界の“消えた天才”はいま
今後のアスリートのモデルケースにも?
ディーンのこうした動きは、今後のアスリートの活動にも影響を与えると思われる。陸上の場合、大学を卒業してから企業で競技を続けられるのは、ほとんどが長距離の選手たちだ。駅伝、そしてマラソンがあるからだ。 しかし、短距離、中距離、跳躍、投てきとなると、大学時代に日本でトップクラスの実績を残さなければ企業の支援は受けられない。
アスリートに求められる「パーソナリティ=営業力」
まして、東京オリンピックが終わってからのことを考えると、コロナ禍による経済への打撃は見通すことが出来ず、企業の支援は減少していく可能性が高い。 そうなった場合、選手として武器になるのは「実績」であり、「パーソナリティ」である(パーソナリティは「営業力」と言い換えてもいいかもしれない)。 ディーンは出資者の期待に応え、記録はかつてのレベルに戻ってきた。あとは、来年の東京オリンピックに向けて、いかに強化を進めていくかがポイントになる。 実は、ディーンは早稲田大学競走部時代は、すでにオリンピックのマラソン代表に内定している大迫傑と同級生だった。箱根駅伝では、大迫に給水を行ったこともある。 「大迫選手、カッコいいですよね(笑)。でも、彼は彼なりの苦労があると思いますし、葛藤もあるでしょう。大学を卒業してからは、会う機会も数回しかなかったので、東京オリンピックに参加して、彼とゆっくり話したいです。それにしても、マラソンの日本記録を更新して、1億円を2回も取ったのは羨ましいですけど(笑)。でも、それも彼の力ですから」 大迫は海外に拠点を移して大きな成功を収めたが、ディーンも陸上界における新しい取り組みによって、復活を遂げつつある。 日本陸上界に新たな息吹が感じられるが、ディーンにとっての完全復活は、自己記録の更新、東京オリンピックへの出場、そしてメダル獲得である。 「父の母国であるロンドン大会に出場し、母の故郷である日本でのオリンピックに出場できたなら、運が良すぎますよね(笑)。これまでやりを投げていない時期も長く、その分、情報も出てなかったと思いますが、これからみなさんと楽しくお話ししていければと思います(笑)」 にじみ出るユーモア。 苦労したためだろうか、柔和な物腰が感じられる。 それでも、クラウドファンディングの実施に踏み切る覚悟には、並々ならぬ意志の強さがある。 ディーン元気のピークは、これから来るのではないか――という予感がする。
生島 淳