俳優・成田凌が「死ぬ以外何でもやる」という気持ちで挑んだ映画「雨の中の慾情」
――あのワンカット撮影には圧倒されました。ただ、もしも義男がこんなにも可愛くて魅力的でなかったら、前半のたくさんの「?」を途中で諦めてしまったかもしれません。
成田:この「雨の中の慾情」の取材では、女性陣が義男を愛でてくださいます。それは自分の中の目標としてありました。(義男が)いなくなった時の寂しさがあったらいいなって。義男には流される瞬間と、欲望のままに生きる瞬間、すごく悪い人間になる瞬間もあると思うんですけど、彼の優しさが見える瞬間がたまにあることで、「優しいんだこの人は」と思っていただけたらいいなと。
――義男のその欲望も、ある設定の中での発露であり、戦争のシーンで明らかになった義男の人生を考えるといたたまれない気持ちになりました。この映画のように、観客に疑問符を与えて混乱させながらも最後まで連れて行くのは、映画という表現形式の醍醐味ですよね。
成田:そう思います。ご覧になる方がこの映画の世界にスムーズに入ってきてくださったらいいなと思って、冒頭のシーンで義男という人が伝わるようにしました。脚本は監督からの手紙のようなものなので、とにかく丁寧に、脚本に書いてあることを一つ一つ形にしていく感覚でした。何も考えずに感情のままやりました、とか言えたらかっこいいですけど、めちゃめちゃ考えました。立ち方一つから、走り方から。
――義男の走り方は確かに独特でした。そしてよく走りました!
成田:監督から「義男はこう走ると思います」と言っていただいたんです。肘を曲げない。手はまっすぐ。腕を振らない。そうだよな、と思いました。走り方に人間が出ると思うし、走るシーンが義男の全てを映し出していると言っても過言ではないかもしれません。脚本では「義男、走る」の1行ですけど、現場では朝晩、毎日このシーンを撮影していました。
――さまざまな場所を走る義男のシーンを一連でつないだシーンが、とてもエモーショナルでした。でも、現場では地道に走り続けていたわけですよね。