悪者アニサキス、スーツ着せるといいヤツに? 阪大教授、サバ100匹さばき「がん治療」の夢拓く
サバやアジなどの魚介類に寄生するアニサキス。元AKB48でタレントの板野友美さんがアニサキスによる食中毒にかかり「出産より痛かった」と報告し話題になった。そんな嫌われ者の寄生虫に、“スーツ”を着せることに成功したと大阪大学の研究グループが発表した。スーツを着せたアニサキスは、将来、がん治療に生かせる可能性があるという。一体、どういうことなのか。 【画像】スーツを着せたアニサキス 「世界中で自分たちが初めて研究成果を見ているんだという嬉しさを感じました」 こう振り返るのは、大阪大学大学院基礎工学研究科の境慎司教授だ。 境教授のグループは、アニサキスなどの線虫の表面を、厚さ0.01ミリメートルほどの柔らかい膜でコーティングする手法の開発に成功した。長さ2~3センチほどのアニサキスに、20分程度でスーツを仕立てるようにコーティングする。膜はゲル状で柔らかく、コーティングしてもアニサキスは生きたまま、匂いも検知し自由に動き回ることができる。 境教授のグループは、がん細胞を攻撃する過酸化水素を作り出す酵素をスーツに組み込み、それをアニサキスに着せて、がん細胞を含む培養液に入れたところ、24時間後には、がん細胞を死滅させることができたという。
2年間の研究でさばいたサバは100匹弱
今回の研究を始めたのは約2年前。インドネシアからの留学生、ウィルダン・ムバロクさんと2人で始めた。大学近くのスーパーマーケットで購入した生サバを境教授がさばき、ウィルダンさんがサバの内臓からアニサキスを拾い集めて、研究に使用した。 2年間の研究でさばいたサバは100匹弱。サバ1匹から収集できるアニサキスの数は、数匹しかないこともあれば、多いときで40匹に上ることもあったという。 研究のきっかけとなったのは、あるニュース記事だった。九州大学のグループが2015年、アニサキスに人の尿の匂いを嗅がせることで、がんの有無を高精度で判定することに成功した――という内容だった。サバを食べて腹痛を訴えた男性を調べると、胃にアニサキスが食いつき、その周辺にがんが見つかった。「アニサキスはがんの匂いが分かるのではないか」との仮説からうまれた研究成果だった。 境教授はもともと、再生医療や組織工学が専門。長年、動物細胞の表面に新たな機能を持たせる研究を続けてきた。今回、がんの匂いを検知して移動するアニサキスは、がん細胞を攻撃する物質の「輸送体」として魅力的だと考え、アニサキスにスーツを着せるアイデアに思い至ったという。 これまでも動物細胞の表面をゲル状の膜でコーティングする研究は行ったことがあるが、アニサキスに同様のコーティングを施せるかどうかは未知数だった。実際に成功したときは「本当にできるんだという衝撃がありました」と境教授は振り返る。この成功を受け、特許を出願した。