ワークマン土屋哲雄専務に聞く 「4000億円の空白市場」をいかにして切り開いたのか
ワークマンプラス立ち上げの舞台裏
――市場があっても参入して開拓するのは容易ではないと思います。 そこでワークマンプラスという従来の作業着とは別のブランドを立ち上げました。しかしながら、ワークマンプラス用に開発した製品はなく、既存のワークマンで取り扱っていた1700の商品の中で、アウトドア向けに展開できる商品を320ほどピックアップしたのです。それをワークマンプラスの製品として販売しました。つまり見せ方を変えたわけですね。 作業着のワークマンでは一体も使っていなかったマネキンや全身の姿見を置いたり、試着室も広めにとったりしました。製品には自信があったもののアウトドアのイメージがないため、「3年は赤字覚悟、認知されるまでには10年」と覚悟して、18年9月に「WORKMAN Plus ららぽーと立川立飛店」を出店しました。しかし連日の行列もあり、初年度の目標をわずか3カ月で達成することができました。 ――実際にWORKMAN Plus 南砂町SCスナモ店に立ち寄ってみましたが、確かにショッピングセンターに店舗があっても全く違和感がありませんね。 実はショッピングセンター(SC)に作業着ブランドがこれまで入ったことはありませんでした。だから初めは「WM+」といったワークマンや作業着を連想させないセカンドブランドを作ろうとしたのです。 しかし、ららぽーと立川立飛を担当していた三井不動産の担当者に聞いてみるとワークマンという名前が、高品質な製品の象徴だというアドバイスをもらい、最終的に「ワークマンプラス」という名前にしました。「WM+」か「ワークマンプラス」で成功したときにどちらのリターンが大きいかを考えたときに、ワークマンの名前が入っている方がいいと考えたのです。
個人に依存しない「凡人経営」
――機能性はもちろんのこと、ファッション性も高いですが、商品開発にはどんな基準を採用しているのですか? ワークマンの場合、商品開発の途中でレビューすることはなく、完成品をみます。その代わりに1年目は小ロット生産にし、反響を見ながら2年目以降に需要予測をして生産するのです。自社製品は5年間売り続けるので、他社が機能面、価格面、デザイン面でも勝てないと思える商品作りを心掛けています。 そういう体制をとっていると従業員が自発的に商品開発をするようになりますね。たとえ1年目で機能が間違っていたり、価格が合っていない商品ができたりしても初年度の生産量が少ないので大丈夫です。 ――他社では社長や会長が居並んで御前会議をし、提案した商品に対してボツを出したりダメ出しをしたりする事例もありますね。ワークマンでは会社の上層部ではなく、あくまで商品を市場や客に判断してもらうということですね。 そうですね。天才的なデザイナーが作るわけではなく、凡人が小出しに商品を作り、2年目で改善していくことを重要視しています。あくまで当社は「凡人経営」であって、特定の誰かに依存するのではなく、従業員にもストレスをかけず、やる気を持って働いてくれることが大切だと思っています。 それこそ昔の商品部では結果が露骨に数字に現れるため、成果を出せない人材は半年で左遷したり、自主退職したりすることもありました。ですが個人の犠牲のもとに会社が栄えても持続性がなく、あくまで平準化し、誰でもできる商品開発をワークマンでは心掛けています。 ――ワークマンの市場の見つけ方は非常に興味深いです。一方で他業種の場合は、この方法をどう応用したらいいのですか? まずは自社の強みをしっかり把握することが肝要です。製品力、顧客関係力、運営力のどれが強いのかを明確にする。次に強化する分野を考えます。ワークマンの場合、運営力は強かったため、製品力を高めることによって他社とより差別化ができると考えました。同時に市場の変化を読みながら、どの分野に進出するかを考えます。 知見もない新たな市場に飛び出しても失敗する可能性が高いです。だから自社の強みが通用する近い市場を狙うことが重要ですね。私は縦軸に市場の大小、横軸に価格の高低を置いた、市場戦略マップを作成し攻める市場を分析しました。データサイエンティストやコンサルタントにこれを頼むと並一通りの答えしか出ないことがありますから、自分の頭で考えることが第一歩だと思います。
事実を客観的に把握する視点
以上が土屋専務へのインタビュー内容だ。難解なロジックを使わずに、他業界でも横展開できるマーケティング手法を活用し、新たな市場を見つけたワークマン。これまで同社が積み上げてきた強みと、決して背伸びをすることのない戦略、新たなカルチャーの定着がうまくかみ合い成長につながった。社員への地道なヒアリングと、事実を客観的に把握する視点が経営者には求められる。(鳥井大吾、アイティメディア今野大一) 関連記事より【後編】ワークマン土屋哲雄専務が、社員の平均年収を700万円に上げた理由、がお読みいただけます。
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