今こそ手に取りたいおすすめ哲学書&詩集5選
先行きが見えない状況のなか、内省的な気分になって行き詰まることもあるはず。そんなとき力になるのは、 生きる知恵を授ける哲学書や気持ちを歌ってくれる詩の世界。手に取りにくかったジャンルに今こそ必要な言葉がある。エル・ジャポン2月号より。
『自省録』 マルクス・アウレーリウス著 神谷美恵子訳
マルクス・アウレーリウスはローマ帝国の皇帝であり、哲 学者でもあった。望みもしないのに最高権力者になり、疫病や戦争に翻弄され、それでも善い人間であろうとした彼が、自分に語り聞かせるようにつづった生き方の備忘録。<たとえ君が三千年生きるとしても、いや三万年生きるとしても、記憶すべきはなんぴとも現在生きている生涯以外の何ものをも失うことはないということ>など、 お守りにしたい名言多し。
『愛するということ』 エーリッヒ・フロム著 鈴木 晶訳
どんなときも人間を支えるのは「愛」だろう。フロムは愛 は自然にできることではなく「技術」が必要と説く。その極意は、もらうより与えること。他人は自分の思いどおり に動いてくれないから、愛されることを目指すと苦しくなる。<愛は能動的な活動であり、受動的な感情ではない。そのなかに「落ちる」ものではなく、「みずから踏みこむ」ものである>という言葉が染みる。自己犠牲を賛美しないところもいい。
『詩の楽しみ 作詩教室』 吉野 弘著
詩の作り方だけではなく、読み方もわかる。ジュニア向けでありながら本格的な詩の入門書。高校生の投稿からプロの作品まで具体例を挙げ、詩の命ともいえる新鮮な表現がどうしたら生まれるかを解き明かす。希望の詩について書いた最終章の<煩わしいと感じることや、いろいろに動揺 しながら生きていることが、自分では気付かない希望の持続をも意味している><絶望に動揺はない>というくだりに救われる。
『モーヴ色のあめふる』 佐藤弓生著
佐藤弓生は現代短歌のなかでも幻想的な作風で知られる。ただ、あとがきで歌人自身が語っているように、幻想は「ほんとうのこと」の種なしには生まれない。この歌集の「ある四月の記録」から「そして三月」までは、東日本大屋災発生後に詠まれた作品のようだ。心もとなく寂しい今の気分にも合う歌がいくつもある。<木星の月を思えり木星とからたちの実のかさなる夜に>から始まる「月百首」も鮮烈だ。
『ディキンソン詩集 アメリカ詩人選<3>』 エミリー・ディキンソン著 亀井俊介訳
エミリー・ディキンソンは生まれ育ったアメリカの田舎町 からほとんど出なかった。人生の半ばからは、家の外に出ることすらなくなったという。体はひきこもっていたが、 「脱走」という言葉を聞くと血が騒ぎ、<わたしは誰でもない人!><天国って好きじゃありません>と書いた。深い孤独を感じさせる詩なのに、言葉の使い方が自由で潔く、 何度も読みたくなる。傑作50編を原文と対訳をあわせ て収録。