「仙台金時」産地化へ ブランドサツマイモで復興後押し 徳島の農家、宮城・名取市に移住
東日本大震災で津波被害を受けた宮城県名取市では、徳島県のブランドサツマイモ・なると金時の元苗となる「高系14号」の産地化を目指す動きが進む。その名も“仙台金時”。復興作業をきっかけに移住した徳島県小松島市出身の農家・浜松彰宏さん(58)が中心となり、被災した農家を雇用して取り組みを進める。浜松さんは新たなブランド創出と担い手育成に意欲を見せる。(高内杏奈)
被災者ら約20人を雇用
仙台空港から仙台市中心部に向けて車で10分。空港付近は甚大な津波被害を受け、農地は復旧したものの遊休地が多い。雑草が生い茂る農地を横目に車を走らせると突如、整備されたビニールハウスが現れた。看板には「産直ハウス金時村」と書かれている。中にはサツマイモがずらりと並び、焼き芋の香ばしい香りが漂う。 「いらっしゃい。焼き芋甘いで~」。東北では聞き慣れない徳島なまりで迎えたのは仙台金時の呼び掛け人、浜松さん。仙台金時は、浜松さんが15年に商標登録した。ほくほくとして滑らかな食感が特徴だ。 2021年は2ヘクタールで栽培し生産量は40トン。地元スーパー20店舗にサツマイモを卸す。この他、「産直ハウス金時村」では焼き芋の販売を10月から始めた。今年は面積10ヘクタール、生産量300トンまでの拡大を目標に掲げる。 浜松さんは被災した農家ら約20人を雇用する。サツマイモを選別・袋詰めしていた森協子さん(68)は、ビニールハウスが建つ農地の所有者だ。「復旧農地をどうするか、体力面で不安があり、困り果てていた。畑を使ってもらい、自分の仕事もできてうれしい」と笑顔を見せた。
仮設住宅建設が転機に
浜松さんは11年、仮設住宅を建設するため名取市を訪れた。被災地で出会った農家を励ますうちに「力になりたい」と気持ちを強めた。出会った農家と農業で地域の再生を目指すことにした。 12年、徳島県阿南市にある新居バイオ花き研究所から同意を得て、なると金時の元苗を取り寄せて栽培を始めた。宮城県内で最適な条件の農地を探し、18年に現在の農地にたどり着いた。同市は海が近い。浜松さんは「潮風が吹く良質な砂地はサツマイモに最適。徳島に負けない芋が作れる」と語る。 21年7月に仙台金時の生産販売を手掛ける会社を設立した。浜松さんに誘われ、横浜市から移住した東北出身の黒沢春美さん(74)は、遊休地を活用して雇用を生み出す取り組みに胸を打たれて出資を決断。「第二の人生は復興のために歩みたい」と思いを強める。 22年は20代と30代の若手2人を受け入れ、担い手の育成にも乗り出す。機械を貸し出したり、植え方のポイントなどを教えたりする。「生産量を増やして認知度を高め、被災地の新たな特産品としてブランドを定着させたい」と浜松さんは夢を語る。
日本農業新聞